泡盛のイメージを、一言で表すと何でしょうか。
そう問われれば、多くの人は「安くて強い地酒」や「独特の癖がある酒」と答えるはずです。かつて酒税の減免措置という歴史的な保護によって大衆の喉を潤してきた泡盛は、その副作用として「低価格」というレッテルを貼られ、産業全体が深刻な右肩下がりの波に洗われてきました。若者のアルコール離れや、地元以外での認知不足。沖縄県内に数多く存在した酒蔵も、この数十年でその姿を消しつつあります。
しかし、2024年末。その常識を根底から覆す、象徴的な出来事が起きました。世界で最も予約が取れないレストランの一つであり、ミシュラン三つ星、そして「世界のベストレストラン50」で幾度も首位に輝いたデンマークの至宝「noma」。その京都期間限定店「noma Kyoto」の食後酒として、石垣島のわずか3名で営まれる小さな酒造所、池原酒造の泡盛「白百合」が選ばれたのです。沖縄県内に46存在する泡盛蔵のうち、最も小さな蔵の1つと言われてきた池原酒造の泡盛です。
なぜ、数ある名酒の中から、石垣島の住宅街にひっそりと佇む無名の小規模蔵が、世界最高峰の舞台に引き上げられたのか。そこには、予測不能な時代を生き抜くための起業家的思考「エフェクチュエーション」の真髄が、鮮やかなまでに体現されているのでした。
今回は、池原酒造が歩んだ直近4年で売上を3倍に押し上げた驚異的なV字回復の軌跡を、伴走者として共に歩んできた私の視点から、じっくりと紐解いていきます。
運命の出会い。石垣島の小さな蔵で
新型コロナウイルスが世界を覆い、観光の島・石垣島からも人影がまばらになっていたころでした。私は単なる一訪問客として、ふとしたきっかけで見つけた池原酒造の「酒造り体験」に立ち寄りました。
南国の熱気と、麹の濃厚な香りが立ち込める蔵の中。そこで黙々と作業を続ける三代目、池原優氏からお話を聞く中で、私は言い知れぬ魅力を感じました。創業から70余年、直火蒸留にこだわり、すべての工程を職人の手作業で行うその姿。正直に言えば、何もかも手作業で、言葉を選ばず、表現すれば原始的。しかしそれは見方を変えれば、効率化を優先する現代社会が失いつつある、力強い「生命力」が宿っているように感じた現場でした。
しかし、当の池原さんは深い葛藤の中にあったと言います。コロナ禍による経営への打撃はもちろん、それ以上に彼らが造る泡盛「白百合」は、地元でも個性的すぎることで有名だったのです。沖縄県内46ある蔵の中で最もクセが強い「カビ臭い」「土の味がする」そんなな評判も先行し、市場のトレンドである「フルーティーで飲みやすい泡盛」からは完全に取り残されていました。
酒作り体験をさせてもらった後、近くの沖縄そば屋さんで昼食を一緒にとりながら、仕事について、そしてこれからについてなど色々とお話を聞かせてもらったことを鮮明に覚えています。厳しい状況にあると言うけれど、池原さんの言葉を聞きながら、私は確信しました。この人は、自分たちの本当の価値にまだ気づいていないだけだ、と。せっかくだからと、気づけば私は「何かお手伝いさせてください」と口にしていました。



