APIキー乱立による開発者の手間をオープン規格「x402」が解消
現状ですでに、AIエージェントによる暗号資産決済の多くが、コインベースが開発したオープン規格「x402」を通じて行われている。この仕組みは、オンラインサービス提供者がAIエージェントに対して直接料金を請求できるようにするものだ。
これまでは、天気予報を取得したり、計算リソースを借りたりといった単純な処理であっても、開発者はサービスごとに個別に登録し、クレジットカード情報を入力し、APIキー(ソフトウェアが他のサービスにアクセスするための仕組み)を発行する必要があった。少しでも複雑なシステムを構築しようとすると、アカウントやサブスクリプション、APIキーが乱立し、管理はすぐに煩雑になる。
x402は、こうした状況に対してシンプルな従量課金型のモデルを提供する。AIエージェントがサービスをリクエストすると、サーバー側が価格を提示し、AIエージェントは開発者に割り当てられたウォレットから暗号資産で自動的に支払いを行う。この仕組みの重要性は、単に従量課金を可能にする点のみにとどまらない。APIキーの乱立の問題を解消し始めている点にもある。現在、多くの企業は600以上のAPIを個別に管理している。
「OpenClawを使ったことがあれば、利用開始前に10個ものAPIキーを設定させられたことを覚えているはずだ」と、x402の開発者でありCoinbase Developer Platformのエンジニアリング責任者であるエリック・レッペルは語る。「x402では、ウォレットそのものが汎用的なAPIキーとなり、x402に対応したあらゆるサービスにアクセスできるようになる」。
x402を通じた取引は約1億700万件に達したものの、利用者は依然として開発者が中心
現時点では、AIエージェントの主な利用者は依然として開発者に限られている。データ提供会社のArtemisによると、2025年5月にx402がローンチされて以降、AIエージェントはこの規格を通じて約1億700万件の取引を実行し、実取引額は約3000万ドル(約48億円)に達している。その大半は、0.2〜0.4ドル(約32~約64円)程度の小額決済だ。
Artemisのアナリストのルーカス・シンは「まだ初期段階であることは明らかだ」と指摘する。現時点では取引量そのものはそれほど重要ではなく、むしろどのエコシステムが実際に開発を進めているか、そしてどれだけの事業者がx402を通じた販売に参加しているかが重要だという。現在、その数は約3900に達しており、そこにはAmazon Web Servicesやブロックチェーン開発基盤のAlchemy、データ企業のMessariなどが含まれている。
AIエージェントの決済基盤として、各社が独自の規格や仕組みを構築
暗号資産業界がAIエージェントによる商取引に強い関心を示すのは自然な流れだ。「我々を含むほぼすべてのエンジニアリングチームが、AIツールを使っている」と、Solana FoundationでAIプロダクトと成長部門を担当するリシン・シャルマは語る。彼のチームでは全員がAIを活用しており、生成されるコードの70%以上がAIによるものだという。
従来のAPIを軸に事業を構築してきたサービス提供者も、今や別の課題に直面している。次の100人の開発者をどう獲得するかではなく、次の100のAIエージェントにどう対応するかへと関心が移りつつある。
ParadigmとStripeが「Tempo」ローンチ、Visaとの提携で法定通貨決済にも対応
ParadigmとStripeは先日、「Tempo」をローンチした。2025年、評価額50億ドル(約7950億円)で5億ドル(約795億円)のシリーズA調達を実施した決済特化型ブロックチェーンだ。また合わせて、両社はAIエージェントによる取引に対応した独自規格も発表した。この規格はVisaとの提携を通じて、法定通貨での決済もサポートしている。
CircleがナノペイメントでUSDCの小額送金をサポート、既存ネットワークへの圧力が高まる
しかし、暗号資産業界の多くは、AIエージェントにとってより自然な決済手段は、プログラム可能なドル建てステーブルコインだと見ている。カード決済は1ドル(約159円)未満の取引には向かないためだ。決済処理業者は通常、取引額に対する割合手数料に加え、1件あたり約30セント(約48円)の固定手数料を課すため、数セント(数円)単位の支払いでは手数料だけで金額が消えてしまう。
こうした背景から、ステーブルコイン分野で第2位のCircleなどの企業も、AIエージェント同士の取引に最適化された決済基盤の構築を進めている。Circleは3月初め、「ナノペイメント」と呼ばれる仕組みを発表した。これは、同社の新たなブロックチェーンArcおよび一部のチェーン上(現在はテスト段階)で、USDCによる極めて小額の送金を手数料無料で行えるようにするもので、最小で1セント(約1.6円)未満の金額にも対応する。
ただし、Visaやマスターカードのような寡占的な決済ネットワークに対する脅威は、マイクロペイメントの領域にとどまらない。ステーブルコインを活用するAIエージェント型AIは、あらゆる規模の取引における手数料に強いプレッシャーをかける可能性がある。
コインベースが支援するBase、エージェントネイティブへの再設計を狙う
AIエージェントが新たな主要顧客層になろうとしている現在、問われているのは「どのように支払うか」だけではない。彼らのためにどのようなウェブが構築されるのかという点だ。コインベースが支援するブロックチェーンBaseの開発者であり、これまでAIエージェント型決済の多くを支えてきたジェシー・ポラックはこう語る。「我々は、スケーリングや分散化といった基盤から、その上に構築されるツールやアカウントモデル、AIエージェントが実際にプロダクトとやり取りするインターフェースに至るまで、スタック全体を一体として捉えている。そして問い続けている。どうすればこれを“AIエージェントネイティブ”にできるのか、と」。
ポラックはまた、AIエージェントがすでに小規模なビジネスのように機能していることを指摘する。起業家ナット・エリアソンが開発した「Felix」は、他のAIエージェント向けのアプリストアを運営し、自ら執筆したPDFガイド『How to Hire an AI』を販売することで、直近30日間で16万3686ドル(約2600万円)の収益を上げた。もちろん、このAIエージェントにも独自の暗号資産トークンが存在するが、その時価総額は150万ドル(約2億4000万円)にとどまっている。


