注視を伝える眼の優位性
この仮説から生じる主な疑問は、強膜の色と協力の関連は、種を超えて見られるのか? というものだ。2022年に学術誌『Scientific Reports』に掲載された論文は、厳密な定量的手法を用いて、この疑問を検証した初めての試みだ。
研究チームは、108種の霊長類の強膜の色彩と、それぞれの種における向社会性、社会的寛容性、致死的な攻撃性といった指標との関連を分析した。
これにより、明るい色の強膜をもつ霊長類(チンパンジーの一部集団やボノボなど)は、より顕著に協力行動を示すことが、疑問の余地なく明らかになった。これに対し、暗い色の強膜をもつ種は、協力傾向が低く、同種他個体に対する致死的攻撃の発生率が高かった。
つまり、悠久の進化的タイムスケールで言えば、白目には平和的意図を伝える機能があるようなのだ。私たちの白い強膜は、私たちが自分の注意の対象を他人に知らせても安全な世界に暮らしていることを物語る。そこでは、他者は味方であり、敵ではない。
白目がどのように向社会的意図の伝達に役立つのか、その具体的なメカニズムについて疑問を抱く人もいるかもしれない。2022年に学術誌『eLife』に掲載された論文において、研究チームは、ヒトとチンパンジーを対象に、明度や距離などの条件をさまざまに操作して、ヒトとチンパンジーの眼の画像を提示した。こうした実験操作は、実世界における「視覚的ノイズ」を再現するためのものだ。
その結果、ヒトもチンパンジーも、ヒトの眼の画像を見たときの方が、注視方向をより正確に特定することができた。とりわけ、視認性が低い提示条件においては差が顕著だった。ただし、チンパンジーの眼の画像にデジタル加工を施し、強膜を白くすると、注視方向判別の成績はヒトでもチンパンジーでもはっきりと向上した。
総合的に、研究チームは次のように結論づけた。白い強膜は、一様に視認性を高めるだけでなく、注視方向のシグナルをより強力なものにしている。すなわち、影や距離、あるいは気をそらす周囲の物体による情報の劣化が、より起こりにくいということだ。これらの知見からは、ヒトの眼が、視覚的ノイズが多く薄暗いサバンナにおいてでさえ、判別可能な手がかりを提供するツールとして磨き上げられてきたことが示唆される。


