サイエンス

2026.04.04 18:00

なぜヒトだけが霊長類の中で「白目」があるのか? アイコンタクトで文明を築いた人類の眼の謎

Shutterstock.com

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チンパンジーとアイコンタクトをとる機会があれば、すぐに不可解な事実に気づくだろう。彼らがどこを見ているかを見極めるのが、かなり難しいのだ。眼の虹彩を取り囲む「強膜(白目)」と呼ばれる組織が、チンパンジーでは暗褐色または黒に近い色であるせいで、彼らの視線を追跡するのは不可能に近い。

これに対して、友人や家族とアイコンタクトをとるとき、私たちは、相手の注意が向いている方向を簡単に突き止められる。ヒトの強膜は純白であるため、望むと望まざるにかかわらず、視線の方向は丸わかりだ。相手は必然的に、コンマ数秒のうちに、私たちが何に注意を向けているかを察する。

この違いは、数十万年にわたる自然選択の産物だ。ヒトの眼は、極めて精密な社会的シグナルの送信機として洗練されてきたと、進化生物学者たちは主張する。こうした自然選択の結果、私たちは地球上で唯一、一様に白い強膜をもつ霊長類となった。そして、研究者たちは数十年にわたり、より大きな疑問に取り組んできた。いったいなぜそうなったのだろう?

チンパンジーは眼の虹彩を取り囲む「強膜(白目)」と呼ばれる組織が、暗褐色または黒に近い色になっている(Shutterstock.com)
チンパンジーは眼の虹彩を取り囲む「強膜(白目)」と呼ばれる組織が、暗褐色または黒に近い色になっている(Shutterstock.com)

「協力的な眼」仮説

ヒトの眼が霊長類のなかで唯一無二の例外である理由を説明する、最も有力な仮説は、「協力的な眼(Cooperative Eye)」仮説と呼ばれている。

この仮説を最初に提唱したのは、マックス・プランク進化人類学研究所のマイケル・トマセロとそのチームだった。おおまかに言えば、ヒトの白い強膜は、他者に対して、注視の方向を判別可能にするものとして進化してきた、という考えだ。

注視を共有することにより、言語を用いない緊密な行動協調が可能になる。こうした協調は、共同体による子育てから、都市の建設まで、ほぼすべての重要な社会的相互作用の基礎をなす。

2007年に学術誌『Journal of Human Evolution』に掲載された最初の研究では、ヒトの乳児と大型類人猿を対象とした実験が行われた。実験者は、眼だけ、頭だけ、あるいは眼と頭の両方を動かして天井を眺めた。すると、大型類人猿は頭の動きを追ったのに対し、ヒトの乳児は、ほぼ例外なく眼の動きを追った。

この発見に基づき、研究チームは、ヒトは眼の向きに対する特別な感受性を進化させてきた可能性が高いと結論づけた。そしてここで重要なのは、白い強膜こそが、こうした感受性を成立させる解剖学的特徴であるということだ。

「協力的な眼」仮説には、直感的に納得できる要素が多い。誰かの視線を追いたいなら、なんらかのコントラストが必要となる。虹彩が暗色で、その背景が白なら、視線の方向はコンパスの針のように一目瞭然だ。一方、虹彩も強膜も暗色なら、わかることはほとんどない。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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