アート・マルコフはコロンビア大学ブロックチェーン・アクセラレーターのアドバイザーである。主要Web3企業の元CMO。
1年あまり前、筆者は2025年のWeb3に関する5つの予測を公表し、Web3ソリューションの採用に関心を持つ事業者に向けた実践的な助言も盛り込んだ。
ここで改めて過去の予測を振り返り、何が当たり、そして2026年に向けて創業者がどこに注意を向けるべきかを整理したい。
成績表:筆者の2025年Web3予測
まず、2025年のWeb3についての予測を見ていこう。
1. 追い風となる規制がイノベーションをもたらす。昨夏にGENIUS法が成立(要登録)すると、銀行はステーブルコインの商品・サービス提供に向けて一斉に動き始めた。さらなる明確化も見込まれるが、2025年には貴金属やトークン化株式が、相当な規模でオンチェーン上で取引されるようになった。
2. 代替決済がより簡単になる。Chainalysisによれば、2025年上半期のステーブルコイン取引は12兆7000億ドルに達した。通年では33兆ドルに達したと推計されている。PayPalのPYUSDの流通量は600%増となり、Stripeは自社製品へのステーブルコイン決済の統合を開始した。
3. AIエージェントが重大な非効率を解消する。エージェント型AIソリューションの登場により、アイデアを市場投入へとつなげることが、かつてないほど容易かつ迅速になった。新たなSaaS製品はバイブコーディング(AIとの対話で直感的にコードを生成する手法)で大量に生まれ、一部の部門では、サブスクリプション料金を他社に支払う代わりに社内利用向けのアプリを自作する動きも見られた。
4. DePIN(分散型物理インフラネットワーク)が主流化する。2025年5月、Heliumは100万人のユーザーを突破した。Lyftの配車は、Hivemapper上のプラットフォームにより道路レベルのナビゲーションが行われている。AI分野やフォルクスワーゲンのような企業もDePINソリューションを利用している。
5. 現実資産(RWA)が大規模にトークン化される。前述のとおり金・銀・株式の取引が本格化し、RWA市場は2025年に3倍となった。ブラックロックのような主要な伝統的金融(TradFi)プレーヤーの寄与もあった。ロビンフッドもトークン化株式をローンチした。
なお、過去の実績は将来の結果を保証しない。
企業向け:2026年のWeb3予測5選
ここからは2026年の予測であり、いくつかは同様のテーマを扱う。
1. AIエージェントの統合は、もはや任意ではなくなるかもしれない
バイブコーディングの進展、エージェントが「スキル」を獲得すること、そして非技術者向けのユーザー体験(UX)の高度化により、アイデアさえあれば誰でも実行に移せる環境が整ってきた。2025年には、AIエージェントを利用する企業は5%未満だとGartnerが指摘している。2026年には、ビジネス界の少なくとも半数がこの不可欠なツールを使うようになると筆者は見ている。
リーダーは何ができるか?小さく始め、どの反復作業をエージェントに任せられるかを見極める。ガス代の支払いに使う少額資金のウォレットを操作できる権限を付与し、規模拡大して活用できるWeb3ソリューションを見つけさせるとよい。
2. 勝者は、キー・オピニオン・リーダーによるマーケティングになる可能性がある
2026年には、注目を奪い合う新規プロジェクトが数千単位で登場するかもしれない。実際、AIエージェントにすべてを任せて眠っている間に、子どもがあなたのビジネスを模倣してしまう可能性もゼロではない。
市場にローンチが溢れ新奇性が増すほど、キー・オピニオン・リーダー(KOL)は、2026年にノイズの中からシグナルを通すうえで、これまで以上に重要になるだろう。
リーダーは何ができるか?早めに着手し、ブランドの認知を高めてくれるKOLとの提携を始める。AMA(質疑応答セッション)、深掘り動画やスレッド、リツイートなどを通じて信頼を築き、競合がKOL発信の蓄積を作り上げる前に動くべきだ。
3. RWAのトークン化は大きく伸びる可能性がある
RWAは2030年までに最大10兆ドルに達し得るという予測もあり、筆者は2026年末までにRWAが2兆ドル超となるところから大きな成長が始まる可能性があると見ている。
RWAの拡大は、より多様な資産の流動性を解放し得る。同時に、借り入れと貸し出しを支えるインフラもより強固になり、信用枠や与信獲得の手段が増える可能性がある。
ただし、これらは予測にすぎない。この領域の過去の成長が今後も同様の結果を保証するわけではなく、市場環境は急速に変化し得る。
リーダーは何ができるか?いまこそ、RWAプロジェクトのパイロットプログラムへの参加可能性も視野に入れた資産監査を実施すべきだ。新たな規制はすでに成立し、さらなる規制も進行中である。2026年により多くの資産クラスがトークン化されるにつれ、自社にとってのRWAを継続的に追いかけていくことが重要だ。
4. 固定金利の貸し出しにより、DeFiのレールが主流化する可能性がある
複数のプロトコルが2026年にピアツーピア(P2P)の固定金利商品に取り組んでおり、DeFiにも間もなく固定金利が到来しそうだ。これにより、オンチェーンの貸し出しに対する機関投資家のアクセスが広がり、借り手は、RWAを担保にするものも含め、貸し手が受け入れられる形で市場に独自の条件や金利を提示できるようになる可能性がある。
リーダーは何ができるか?既存の銀行との関係を見直し始めることだ。担保不足(アンダーコラテラル)のDeFi市場や、機関投資家のカウンターパーティーを伴うRWA担保ローンは、検討に値するかもしれない。
5. アカウント抽象化と相互運用性が拡大する
ステーブルコインが主流に深く根付き、Web3のレールがWeb2の中央集権型ネットワークに取って代わり始めるにつれ、人々は暗号資産を使っていると意識しないまま暗号資産を使うようになるだろう。これは抽象化(abstraction)と呼ばれる現象である。
今日、IPアドレスを持っていることを知る顧客は少ない。まもなく、秘密鍵を持っていることを知る人も少なくなる。
リーダーは何ができるか?入出金の両面でデジタル資産を受け入れることを検討し、デジタル資産のレール上での資産管理に向けた取り組みも始めるべきだ。
Web3の未来
2026年にすべてがWeb3で動くのか? いいえ。しかし、1995年に「すべてがインターネットで動くのか」と問われていたら、筆者も同じく「いいえ」と答えただろう。だがそれは間違いだった。変化がどれほど速く進むかを正確に言い当てることは、誰にもできない。
本稿の他の予測とも整合するが、熟練したAIエージェントはウォレットを使って物事を進められるようになり、企業はKOLにステーブルコインで支払い、資本へのアクセス拡大は組織のWeb3統合に左右されるようになると筆者は考えている。
2027年に状況を確認したい。
ここで提供する情報は、投資、税務、または金融の助言ではない。自身の具体的な状況に関する助言については、資格を有する専門家に相談すべきである。



