だが、それはロシアが享受している恩恵のほんの一部に過ぎない。例えば、イランとの対立は、米国にとって極めて重要な外交・軍事上の焦点となっており、ウクライナ侵攻に対する注意が明らかにそがれている。これにより、ロシアはウクライナに対する軍事作戦を自由に展開することができるようになったほか、ロシアが長年にわたり拒否し続けてきた米国主導の停戦交渉を無期限に先送りすることになった。
また、イランへの軍事作戦で、米国が高性能な精密誘導ミサイルや防空迎撃ミサイルを大量に投入していることは明白だ。そのため、同国が今後これらの装備をウクライナに供与することや、少なくとも今後1年程度は米軍の兵器備蓄を補充することが困難になるだろう。
さらに、米軍の施設や要員の所在に関する情報を提供することで、ロシアがイランを支援しているとの報道もある。これにより、米国にとってのイラン攻撃の代償が人的・物的双方で拡大し、混乱が長期化する恐れもある。
作り上げられた印象と実態の差
これは一体、何を意味するのだろうか? 筆者の見解では、中東情勢の混乱により、短期的にはロシアが大きな恩恵を受けることは明らかだ。同国は特に原油価格の高騰や、ロシア産原油を巡る制裁を一時的に緩和するという米国の決定を通じて利益を得ることになるだろう。原油価格の高止まりがいつまで続くか(アナリストの大半は6カ月以上と予測している)が、この臨時収入がロシアにとってどれほど大きな意味を持つかを左右することになるだろう。
他方で、プーチン大統領が、ロシアの経済、軍事、政治、社会の実態以上に、強大さや政治的な勢いという印象を作り出すことに長けているのは紛れもない事実だ。プーチン大統領の統治手法はロシアの当面の展望を損なっただけでなく、外国投資の誘致、優秀な科学者の確保、世界水準の教育制度の構築、AIや宇宙開発といった先端技術の推進、官僚の汚職の根絶など、国の将来の相対的な強さを決定付けるすべての主要分野で、時間の経過とともにロシアの遅れをさらに拡大させることはほぼ確実だ。
西側の政策立案者は、ロシアが当面の間、米国とその同盟国に及ぼす脅威を正しく認識しつつ、一方でロシアの相対的な国力が着実に低下しているという事実を客観的な分析と照らし合わせ、プーチン大統領を冷静に見極めるべきだろう。
メディアが繰り返し伝えるプーチン大統領の強力な指導力や、国内外の情勢を巧みに操る手腕という報道に直面した際に忘れてはならないのは、同大統領が、終わりの見えないウクライナでの悲惨な長期戦争へとロシアを導いた直接の責任者であり、同国の長期的な政治的・経済的・科学的な衰退の土台を築いた人物であるということだ。それは、恐れたり、称賛したり、模倣したりするに値する姿とは到底言えない。


