その背景を経済理論から読み解くと現実が見えてくる。
「¥907 vs $15」
私事になるが、このところ、東京とNYを往復する生活を続けている。ことあるごとに、サービスの生産性や価格の日米比較をしてしまう。その時に際立つのは、東京の素晴らしさだ。
地下鉄は、NYには時刻表はないが、東京は時刻表どおりに走るし、乗り心地もはるかに快適だ。郵便局の窓口局員の日米生産性格差はおそらく10対1くらいあるだろう。東京とNYのホテルを比べると、東京のほうがはるかに接客や設備が良いのに料金は安い。レストランも同様だ。海外旅行客が日本に殺到するのもよくわかる。
現在の125円水準では、日本のサービスは良質で安価というものが多い。東京を訪れる友人たちは皆、日本の物価が安いと言っている。もちろん、12年11月以降の急激な円安(80円⇒125円)の結果、日本の物価が安く見える、というのは確かだが、日本のサービス産業の賃金・物価が、日本銀行の掲げるインフレ目標2%に対して、なかなか実現していないことも大きい。
インフレ・賃上げの硬直性が存在
日本の賃金は安いとして、サービス産業の価格はどうだろうか。マクドナルドのビッグマック(英エコノミスト誌の「BigMac Index(15年1月時点)」)は、日本370円、アメリカ$4.79(約600円)。製品価格でも、日本は圧倒的に安い。
フォーブスジャパン10月号より
図2は、89年から15年までのビッグマックの日米価格比だ。
ビッグマックのNY価格(緑線)は一貫して上昇してきたが、とくに近年の上昇率が高い。日本価格(赤線)は、経済のデフレ傾向を反映してか、下落をしたあと、06年ころからようやく値上げになってきた。NY価格は、日本価格のドル換算価格(黒色)よりも多くの場合高めに推移してきた。日本のビッグマック価格(ドル換算)がアメリカでのビッグマック価格を上回ったのは、円高の進行していた90年代前半のみである。10~12年の超円高期にも、日米格差はほとんどなくなっていた。ビッグマックの日米価格比較でも、日本が特に安いのである。
ここ2年間、日本でも、政府が音頭をとって産業界に賃上げ(ベースアップ)を求める春闘が続いている。アベノミクスの成功のためには、インフレ率2%の目標達成と、2%を上回る賃上げが必要だ。日本では政府が民間の決定に口出しをするのはいかがなものか、という意見も出されている。しかし、日本ではこれまで「低インフレ⇒賃上げ萎縮⇒低インフレ」という「インフレ・賃上げの硬直性」が存在した。
これを打破するには、インフレ目標政策の量的緩和による推進(黒田東彦・日銀総裁の努力)と同時に、各業界の足並みの揃った賃上げ(他社が上げるならわが社でも、のような協調賃上げ)が経済理論的にも望ましい。
賃金の日米格差は縮めてほしい。