旅行計画や医療相談、カバーレターの作成支援のためにAIに頼ることは、単に時間を節約するだけではない。AI(人工知能)への依存が人間の推論をどのように変えるのかを研究する研究者によれば、それは意思決定を処理する脳の仕組み自体を根本から作り替えつつある可能性がある。
AIが批判的思考力に影響する、という指摘自体は目新しいものではない。だが多くの研究が観察研究にとどまるなか、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの認知行動科学者たちは、実証的エビデンスを積み上げたいと考えた。そこで約1300人を対象に実験を行ったところ、参加者がChatGPTの利用を選んだケースの80%で、誤答を精査することなく採用していたことがわかった。
「私たちはこれを『検証なき採用』と呼んでいる」と、ウォートン・スクールの認知行動分野の博士研究員スティーブン・ショーは取材で語った。
ChatGPTやClaude、Google Geminiといった生成AIシステムがタップ1つで利用できる状況では、「人は思考をAIに明け渡し、代わりに考えさせてしまうことがある」と彼は言う。「脳内の一連のプロセス全体を、事実上、迂回しているのだ」
ショーと、計算・神経システムの博士号を持つエンジニアでもあるウォートン教授ギデオン・ナヴは、この現象に「認知の降伏(cognitive surrender)」という名称を与えた。そしてそれが、直観、内省、分析的熟考といった、より遅く内面的なプロセスを侵食しかねないことを懸念している。そうしたプロセスは判断を形づくり、さらには自己感覚にまで関わる類いのものだ。
「驚くことに、自分自身で批判的に検討していない回答であっても、それに対する確信の持ち方まで変わってしまう」とナヴは、研究についてのウォートンのポッドキャストで述べている。
AIが日常生活にますます組み込まれるなか、教育者からビジネスや医療のリーダーに至るまで、急速に発展するこの技術の「認知面での費用対効果」をめぐり議論を交わしている。2024年の研究では、大規模言語モデル(LLM)をGoogle検索よりも使ったドイツの大学生は、推論が十分でなく、論の質も低いことが示された。さらに昨年、MITメディアラボの研究は、「AI駆動の解決策への過度な依存」が「認知の萎縮(cognitive atrophy)」や批判的思考能力の低下に寄与しうることを示唆した。



