キャリア・教育

2026.03.30 12:30

パランティアが賭ける「見過ごされた人々」──神経多様性人材がAI経済で優位に立てる理由

Photo illustration by Cheng Xin/Getty Images

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その数字は一見データの誤りにしか見えない。JPモルガン・チェースの「Autism at Work(オーティズム・アット・ワーク)」プログラムによると、特定のテック職種でニューロダイバーシティ(神経多様性)採用枠から入社した従業員は、同じ職務に5年から10年就いていた定型発達の同僚と比べて90%から140%高い生産性を示し、ミスはほぼゼロだった。

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UiPath(ユーアイパス)は、AutonomyWorks(オートノミーワークス)との試験的プログラムにおいて、ニューロダイバーシティ人材(神経多様性)がAIデータラベリング業務で、それ以外の従業員より150%高い生産性を記録したと報告した。ヒューレット・パッカード・エンタープライズは、オーストラリア人的サービス省のニューロダイバーシティ人材によるソフトウェアテストチームが、定型発達のチームより30%高い生産性を発揮したことを確認した。SAPでは、ニューロダイバーシティ人材がたった1人で考案した解決策が、推定4000万ドル(約64億円。1ドル=159円換算)のコスト削減をもたらした。

これらの社内プログラム指標は、世界最大級の企業4社から約10年にわたり一貫して報告されたものであり、ニューロダイバーシティ人材が明確な優位性を持つことを示している。

世界人口のおよそ15%から20%がニューロダイバージェント(神経学的に多様な特性を持つ人)であり、その範囲は自閉症、ADHD(注意欠如・多動症)、ディスレクシア(読字障害)、ディスプラクシア(発達性協調運動障害)、および関連する状態を含む。

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英国では、National Autistic Society(ナショナル・オーティスティック・ソサエティ、全国自閉症協会)が公表した英国国家統計局のデータによると、自閉症の成人のうち有給の仕事に就いているのはわずか22%にとどまる。2024年の英国政府報告書「Buckland Review of Autism Employment(バックランド自閉症雇用レビュー)」では、就労年齢の自閉症者のうち雇用されているのは10人中わずか3人であり、障害のない成人の10人中8人と比較して著しく低い。2024年にZurich UK(チューリッヒUK)が実施した調査では、ニューロダイバージェントの51%がスティグマ(社会的偏見)を理由に、雇用主に自身のニューロダイバーシティを開示できない、あるいは開示すべきでないと感じており、3分の2が雇用主はニューロダイバージェンスを警戒すべき兆候と見なしていると回答した。

その結果として生じているのは、数十年にわたり固定化してきた構造的なミスマッチだ。労働力のなかで最も高い生産性を記録している人材プールが、同時に最も雇用されておらず、最も見えない存在となっているのだ。

パランティアCEOの賭け

パランティア・テクノロジーズの共同創業者・現CEOのアレックス・カープは、この状況がどこへ向かうかについて明言してきた。「自分に将来があると確信できる方法は、基本的に2つしかありません」とカープは2026年3月、TBPNの番組で語った。「1つは、何らかの職業訓練を受けていること。もう1つは、ニューロダイバージェントであることです」。

パランティアは2025年後半、この考えを制度として具体化した。ニューヨークとワシントンD.C.の職種を対象に、ニューロダイバーシティ人材向けの専用採用ルート「Neurodivergent Fellowship(ニューロダイバージェント・フェローシップ)」を立ち上げたのである。報酬は年間11万ドルから20万ドル(約1700万~約3200万円)で、株式付与と入社一時金が含まれる。求人情報には、ニューロダイバージェントな人材が「アメリカと西側諸国の未来を大きく形作ることになる」と明記されている。最終面接はカープ自身が行う。同社はこのプログラムを「ダイバーシティ施策ではない」と明確に位置づけている。

自身がディスレクシアであることを公表しているカープは、現在およそ3700億ドル(約58.8兆円)の時価総額を持つ企業を築き上げた。標準化テスト、学歴重視の選抜ルート、定型発達者のコミュニケーションスタイルを前提とした面接形式──かつて自分をほとんど排除しかけたそうした採用システムは、AI主導の経済で重要となる認知特性、すなわちパターン認識、1つの問題への持続的な集中力、非線形思考を予測する指標としては、ますます不適切になっている。少なくともカープはそう見ている。

市場データもこの方向性を裏づけている。ガートナーの2024年2月調査では、2027年までにフォーチュン500企業の営業組織の20%が、業績向上のためにニューロダイバーシティ人材を積極的に採用するようになると予測した。パランティアがフェローシッププログラムを立ち上げたのは2025年後半であり、この予測された転換点に約2年先行している。

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翻訳=酒匂寛

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