イマンの妻で専業主婦のナジメは、一言で言えばケア役割に徹する生活保守である。モダンな住まいは彼女の手で美しく居心地良く整えられ、食卓には美味そうな手料理が並ぶ。今よりもっと豊かな生活が実現するだろう夫の昇進を喜び、夫の疲れを癒そうと日々努めるが、不本意な仕事に骨絡みになっている彼の苦悩までは共有できない。
一方で、重症を負った娘の親友の手当てを引き受けつつも、夫の立場を守るため、反政府デモの広がりに関心を持つ娘たちをしばしば牽制する。彼女を動かしているのは傷ついた人への同情だが、それにも増して、夫を立て現在の生活を守りたいという気持ちが強い。比較的恵まれた環境を手にした既婚女性の一典型とも言える。
二人の娘は大学生のレズワンと高校生のサナ。オシャレをしたい年頃の女の子の顔を持つ反面、盛り上がる抗議運動や武力弾圧の模様をSNSで知り、テレビの情報しか知らない両親とのズレを感じている。彼らZ世代は、イランでもとりわけ西洋の近代的価値観に馴染み、イスラム教から距離を取っていると言われている。外では一応ヒジャブを身につけるが、家では欧米の女性と同じ服装だ。
正義感の強いレズワンは、騒ぎで閉鎖になった大学構内で散弾銃を浴び重症を負った親友サダフを家に匿う。政府の組織で働いている父に彼女を助けてもらおうと考える短絡的な面もありつつ、メディアリテラシーをめぐって母と口論したり、自分の現実認識を否定する父に激しく反発したりするところは、強権政治や伝統の支配に抵抗する今時の若者そのものだ。
しかし彼女たちの生活が国家に奉仕する父の経済力によって成り立っている以上、どれだけ正論を吐いても実質的には何の力も発揮できない。持って行き場のない怒りを晴らすために、エアロバイクを猛然と漕ぐ姿には、前に進もうとしても進めない抵抗運動のもどかしさと若い世代のジレンマが滲んでいる。
姉にはまだ子ども扱いされている妹のサナは、レズワンより無邪気に描かれているが、SNSで素早く必要な情報を集める機転があり、家庭内のギクシャクに沈みがちな母を手伝う思いやりも見せる。感情を表に出し血気盛んと言ってもいい姉に比べると、一歩引いた視点で状況を眺めているようにも映る。
信頼関係で結ばれていた家族の間に、不穏な社会情勢をめぐって小さな亀裂が入り、徐々に明確な不協和音になっていくさまがじっくりと描かれる前半を折り返し、後半の最初に置かれるのは、イマンが上司から渡された拳銃を紛失するという事件だ。


