アート

2026.03.31 12:15

「内なる衝動」を解き放て━━BCGコンサルタントの私が東京藝大で辿り着いた全人格経営の核心

筆者が制作した『「私」を生きるための顔面装飾具』(撮影:Yu Uchikura)

「〜ということですね、よくわかりました」と、すべてをロジックで綺麗に整理してしまう技術。それは、ビジネスでは相互理解のための枠組みとなり、意思決定を速める有効なコミュニケーション手段です。しかし、人間が本来持っている「言葉にできない違和感」や「合理性の外側にある真実」を削ぎ落とし、未知の可能性を既存の知識体系の中に閉じ込めてしまう行為でもあります。

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西尾氏は、私たちが効率と引き換えに自他の中にある「割り切れない主語(私)」を組織から消し去っている可能性を示唆していました。

BCGのオフィスに展示された西尾美也氏の作品(出所:BCG Japan ウェブサイト「『日常をアートにする』生き方 東京藝大・西尾美也准教授に学ぶ」)
BCGのオフィスに展示された西尾美也氏の作品(出所:BCG Japan ウェブサイト「『日常をアートにする』生き方 東京藝大・西尾美也准教授に学ぶ」)

個人の「衝動」を組織のノイズにしないために

組織が本当の意味で活力を取り戻すためには、制度を整えるだけでは不十分です。「全人格的な経営」とは、単なるスローガンではありません。それは企業が社会的役割を全うしながらも、そこに従業員「個人の衝動(装飾具)」を重ね合わせ、その矛盾を抱えたまま歩み続ける経営姿勢そのものかもしれません。

では、両者をどう両立させるのか。鍵は、「文脈化」にあります。アーティストのように「私」の衝動をそのまま突き通すだけでは、組織の中で孤立し、周囲を置き去りにしてしまいます。その衝動が環境変化や時間軸の中で社会の文脈とどのように重なり得るのかを、冷静に見極めるのです。そして、客観的な言葉を用いて、その衝動を社会的役割の中で生きるように変えるのです。

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例えば事業の開発担当者が、あるプロダクトについて「単に機能を満たすものではなく、使う人の記憶に残る体験として届けたい」と考えたとします。使う人の記憶に残っているかどうかは、KPIで定量的に測れるわけでもなく、その重要性を問われるとうまく説明しにくいものです。この思いをそのまま掲げても、組織の中では単なる「個人的なこだわり」として扱われてしまうでしょう。だからこそ、それを「文脈化」する必要があります。

例えばこの思いを、社会的な文脈と照らし合わせ、「機能的価値だけでなく質の高い体験が、顧客の継続利用やブランドへの信頼に大きく影響しているのではないか」という問いへと言い換える。そして、「ユーザー体験の質を設計・評価する指標やプロセスを組み込むことで、長期的な価値創出につなげられるのではないか」という具体的な提案へと接続するのです。

すなわち、「どうしてもこれを実現したい」という個人的な衝動は、「なぜそれが重要なのか(社会的文脈)」と「どう実現し得るのか(手段)」という形へと変換することで、初めて他者と共有可能な衝動へと変換されるのです。

そうすることで、個人のエネルギーは組織を動かす正当なエンジンへと昇華されます。もちろん、決して楽な道ではありません。自分の衝動と組織の論理の間で、葛藤を抱くこともあります。実際、私自身もそれで思い悩むことが少なくありません。

しかし、葛藤を捨てず、社会的な文脈を持ちながら、適切な時までその接点を探し続けることに大きな価値があります。それは既存の正解に安易に流されることを防ぎ、やがて新たな文脈と結びついたとき、見過ごされていた新たな価値創出の起点となり得るのです。

同時に、自分と仲間を「組織の歯車」ではなく、「ひとりの表現者」として見ることも重要です。業務の枠を超えた「こだわり」を、効率を乱すノイズではなく、組織に新しい風を吹き込む「表現」として歓迎してみる。ひとりの人間として尊重される実感が、結果として組織の生命力を引き出し、社会彫刻の活動へとつながるのです。

本稿が、日々の業務のなかで「私」を見失いかけているすべてのビジネスパーソンにとって、道標になれば幸いです。

『顔面装飾具 - やまんばメイク / 迎合しない自分の美学を貫く』(撮影:Max Fischer、制作協力:N and R Foldings Japan)
『顔面装飾具 - やまんばメイク / 迎合しない自分の美学を貫く』(撮影:Max Fischer、制作協力:N and R Foldings Japan)

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文=平岡美由紀

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