「私」は伝播し、組織を変える
作品は、やがて周囲の人々を巻き込むプロジェクトへと進化しました。私は他者のための装飾具も制作し、それを身に纏った彼らのポートレートを撮り始めました。
皆、装飾具を見ると最初、戸惑いの表情を浮かべます。しかし、装飾具を顔に当てた瞬間、表情は変わります。それは何かに「なりきる」というより、装飾具という媒体を通して自己を表出するスイッチが入った、そんな晴れやかな面持ちでした。

さらに、装飾具をつけた人々のポートレート(肖像写真)を学内に展示した際、観にきてくれた人々が、「自分にとっての装飾具は何だろうか」と、自らの内面についての問いを深めていく光景も目の当たりにしました。
そこで、私は確信しました。個人の切実な表現は、伝播します。それはビジネスにも言えること。リーダーが「役割」の仮面を脱ぎ、ひとりの人間としての「自己」をさらけ出すとき、それは周囲の人々に対して、「あなたもまた、ひとりの人間としてここにいていいのですよ」という強力なメッセージを送ることになります。
リーダーの芸術的行動は、組織の文化を内側から変えていきます。組織の心理的安全性を高め、枠にとらわれない発想やイノベーションが生まれるきっかけとなる可能性があるのです。

組織の可能性を狭める「意外なスキル」
2025年6月には、西尾氏をBCGのオフィスへと招き、社員を対象としたイベントに登壇してもらいました。自身が経験した気づきをBCGで働く人々に共有し、どのように響くかを見てみたいと考えたのです。
西尾氏は、見知らぬ通行人と衣服を交換する「セルフ・セレクト」という活動や、大阪の下町、西成区に住む高齢女性たちと立ち上げたブランド「NISHINARI YOSHIO」を展開。服を通じて生まれる人と人との関係性そのものをデザインの対象ととらえ、「モノ」としての服ではなく「コト」としての装いをデザインしています。
美術館やギャラリーに展示される作品だけでなく、街中や公園、住宅地など、人々が暮らしたり、働いたりする場所で自然に発生する創造性を芸術としてとらえ直そうと、世界のさまざまな土地で作品を生み出してきました。

そんな西尾氏が講演中に示した、「芸術を見てそれを知ることではなく、『私が芸術である』という意識が大事」だという考え。それは普段、正解や客観性を武器に戦うコンサルタントたちの胸を、深く突きました。
講演後、参加者のアンケートには、様々な反応が記されていました。 ある人は「自分のどうしても抑えられない調べ癖を、生きる技術としての芸術かもしれない」と肯定し始め、またある人は、「目的のない街歩きや、料理でレシピを無視する瞬間に、自分だけの芸術性が宿っていることに気づいた」と回答しました。
一方の西尾氏はセッションを通じ、コンサルタントたちにある共通項を見つけ、戸惑いを覚えていたことを、明らかにしました。それは、コンサルタントたちが持つ「高すぎる要約力」です。


