実務経験を積む職務が消滅
若手はこれまでずっと、現場で場数を踏むことで判断力を培ってきた。まずは、限定的な範囲にとどまった作業からスタートし、少しずつその範囲を広げていきながら、意思決定の過程や、それによってどのような結果が得られるのかを目にしてきた。異なるシナリオを比較したり、多額の損失を出さない程度の小さなミスを繰り返したりしながら、少しずつパターンを内在化させ、一連のプロセスをより複雑な形で自ら再現できるようになっていく。そのようにしてやがて、自分が若手の時にやっていた仕事を監督する立場になる。専門知識やリーダーシップは、技術の習得と年月によって育まれていくのだ。
ところが、新人向けの職務が、縮小されたり、実務の遂行ではなくツールを中心に再設計されたりすれば、現場で場数を踏むことはもうできない。若手は今、仕事の前提条件を理解しない状態で予測を承認したり、エラーが生じる原因を知らない状態で分析結果を検証したり、自ら導き出したわけではない結論を伝えたりするよう求められている。土台となる実務を一度も自らの手でやってみたことがないとき、目の前のことに疑問を抱く上で必要な専門性の深みを培うことは困難だ。
専門性を深めるにはどうすればいいのだろうか。これは、従業員が自ら実務経験を積むことで学ぶことがなくなってしまった今、人材育成の面で解決すべき課題となっている。
筆者が司会を務めるポッドキャスト番組「The Future of Less Work」に出演した、アラブ首長国連邦(UAE)のスタートアップAppliedAI(アプライドAI)の創業者でCEOのアーリア・ボルーフルーシャンは、こうした状況には意外な利点が伴うと主張した。新入社員が、業務の反復という訓練を積まなくてもよくなったのは、従来のやり方にあまり縛られないという意味でもある。これまでのやり方に合わせる必要がなくなれば、アウトプットを新しい視点でとらえるようになり、より良い問いを提示したり、以前よりもスムーズにギャップを特定したりできるケースが増えていく。
同時に組織は、AIによって、これまで見えてこなかった物事を可視化することを強いられる。「その結果、誰かの頭の中にだけ存在していた知識が制度化され、批評の対象になり得る」とボルーフルーシャンは話す。経験豊かな従業員の脳内に存在していた暗黙知は今後、システムで実行できるよう文書化される必要がある。
こうした変化で、新たな種類の学習環境が生まれる。専門知識はもはや、現場で学んだり、年月を重ねて伝えたりするものではない。コード化され、アクセスが可能で、批判や検証の対象になるのだ。


