石油市場のような危機対策が施されてこなかったガス市場
一部のアナリストは、市場の反応は過剰であり、最終的には他の供給業者がその穴を埋めるだろうとみている。その見方は1週間前ならもっともらしく聞こえたかもしれないが、カタールのガス田が爆撃された今となっては、それを主張するのは非常に困難だ。ラスラファンは経路変更が可能なパイプラインではない。タンカーも経路を変更することはできない。これは3週間に2度も被害を受けた複雑な産業施設であり、被害の完全な復旧には3~5年かかる可能性がある。
楽観的なシナリオでは、戦闘の完全な終結とホルムズ海峡の安全な航行の回復、そして2週間の再開手続きが必要となるが、いずれも新たな攻撃なしに実現されなければならない。米金融大手ゴールドマン・サックスは、ホルムズ海峡があと1カ月封鎖されれば、ガス価格は現在の水準から2倍以上に跳ね上がる恐れがあると警告している。欧州は2022年に同様の危機を乗り切ったが、それは数カ月の準備期間があったからできたことだ。
米石油企業ガルフオイルのトム・クロザ上級顧問は、次のように述べた。「もしイランがペルシャ湾以外の場所、例えばオランダ・ロッテルダムの製油所や米国内の施設を標的にしたら、世界がどんな反応を示すか想像できるだろうか? そうなれば、もはや予測がつかなくなり、価格はまさに破滅的な水準にまで跳ね上がる可能性がある」
世界は過去50年間にわたり、石油供給危機に対処するための体制を整えてきた。具体的には、戦略備蓄、余剰生産能力、タンカーの航路を即座に変更できる体制などが挙げられる。一方、LNGに関しては、それに相当する対策はほとんど練られてこなかった。なぜなら、LNG設備が攻撃の標的にされるとは想定されていなかったからだ。その思い込みは、今回の軍事衝突の中で消え去った。
既に明らかになっているのは、今回の危機によって、信頼できる世界的なガス供給国となるための資源と安定性を備えた米国、オーストラリア、カナダへのLNG関連の投資が加速するだろうということだ。混乱は痛みを伴う。これが引き金となって進む社会基盤の整備は、最終的に今後数十年にわたって世界のエネルギー貿易のあり方を大きく変える可能性がある。


