また、中国4000年の歴史を背景とした中国料理の世界では、年代物の柑橘の皮「陳皮」や中国茶が価値あるものとして評価されるなど、時間の経過が生み出す深い味わいが重要視される。
今回1位となった「ザ・チェアマン」のダニー・イップシェフは、授賞式の壇上で「うちのスタッフの平均年齢は52歳、多くが開業時の17年前から働き続けている『ヴィンテージ・チーム』」と冗談を飛ばした。
それだけではなく、チェアマンでは多くの中国料理店で使われている化学調味料を一切使わず、代わりに開業時から作り続け、なかは「17年もの」のものもある発酵調味料や保存食などが料理に使われている。「時間が生み出す発酵や保存食の味わいは、新しくつくることができないもの。それが私の料理の味の決め手になっている」と語った。
日本の地方の多様性
日本のベスト50入りは減ったものの、51〜100位のリストには51位に「傳」、60位に「Goh」(福岡)、63位に「鮨しゅんじ」、72位に「鮨さいとう」、76位に「チェンチ」(京都)、81位に「ヴィラ・アイーダ」(和歌山)、82位に「片折」(石川)、93位に「出羽屋」(山形)が入るなど、今後に期待ができる結果となった。
昨年に日本の新評議委員長として選ばれた浜田岳文氏は、「No.1を取るかどうかに注目が集まりがちなアワードですが、日本は、ローカルな地域でも美食が楽しめるのが特徴で、このような国は他にないはず。多様性の時代に、東京だけでなく多くの地域のレストランが選ばれることにも大きな意味があります」と語っている。
「自分の物語を伝える」料理の背景にあるもの
50ベストでは、未来の美食を考え、人と人を繋ぐためのイベントを行なっているが、その一つが、シェフとメディアが直接話し合うMeet the Chefというイベントで、今回は「Time as Craft」というテーマで、各店のさまざまな取り組みが紹介された。
その中で印象的だったのは「自分の気持ちや物語を伝えることで、食べる側の感情を動かす」と語ったシェフが多いことだ。
台湾でモダンシンガポール料理を提供する「JLスタジオ」(50位)のジミー・リンシェフは、「2017年に店をオープンする際、もともと台湾食材を使ったヨーロッパ料理を考えていた。でも、当時はノーマの影響もあり、地元食材を売りにする店の全盛期。試作した料理が他の店と同じに見えた。どうやって違いを生み出そうかと考えたとき、自分の感情を動かす料理は、食べて育ったシンガポール料理だと思い、2週間前にメニューもコンセプトも全部変えた」という。
香港「ネイバーフッド」(24位)のデビッド・ライシェフは、「30年以上料理をしているが、10年ほど前から、市場に行き、食材を選んで、自分の感情を動かす料理をつくるようになった。一番の褒め言葉は『シェフの感情が伝わった』と言われること」と語る。例えば、自ら採集した松茸をシンプルにオリーブオイルで焼き上げ、蜂蜜を垂らした料理など、その時の感性で作り上げる料理は、日々変わり、その日だけの限定の料理として注目を集めている。


