ほんの数週間前、イランや湾岸諸国の上空をミサイルやドローンが飛び交い、エネルギーインフラを脅かすようになる前までは、原油価格をめぐるアナリストの分析は「長期的に下落する」という見方が主流だった。国際的な原油指標である欧州の北海ブレント先物相場は1バレル=60ドルに向かうと予測され、米WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物相場は2026年後半にかけてさらに低迷する見通しだった。
需要が緩やかに増加しているとはいえ、市場は供給過剰の状態にあり、この構図が変わるには何らかの重大な混乱が生じるか、恐るべき「ブラックスワン事象」──すなわち全く想定外の突発的事象が社会や金融市場を揺さぶる事態しか考えられないとされていた。
イランに飛来した「黒い鳥」
そのブラックスワンは2月28日、JPモルガンが2026年後半のブレント相場を1バレル=60ドルと予測した翌日に、イランを標的とした米国とイスラエルの共同軍事作戦の開始とともに飛来した。その瞬間、従来の予想は一変。事態が展開を続ける中、アナリストたちは連日、原油価格の試算を見直している。
JPモルガンは3月13日、ブレント価格が「長期にわたり」1バレル=90ドルを上回れば、株式市場で10~15%の調整局面が生じるとの警告を発した。
一方、ゴールドマン・サックスはアナリストのダーン・ストルイヴェンが中心となってまとめた3月22日付の投資家向けレポートで、2026年の原油価格見通しを修正。ブレント原油の予想を1バレル=85ドルに、WTI原油は79ドルにそれぞれ引き上げた。その上で、ホルムズ海峡を通る船舶輸送の停止により、中東の原油輸出量が日量1100万バレル減少していることに言及。ブレント価格は4月末まで平均110ドルで推移するものの、2026年第4四半期には71ドルに落ち着くとの予測を示した。
だが、イランのミサイルやドローンによる攻撃が湾岸諸国の石油生産・精製・輸出インフラに与えている被害の大きさを考慮するに、これは楽観的なシナリオに思われる。



