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2026.04.08 13:30

日本は「柔術」で生き残れるか:川村雄介の飛耳長目

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NHKの朝ドラの影響か、ラフカディオ・ハーンがちょっとしたブームになっている。ハーンといえば『怪談』だが、彼は明治末期の日本と日本人についても深い洞察を加えている。先の冬季オリンピックで、りくりゅう・ペアの金メダル獲得劇を見ながら、ハーンの日本人女性観が頭をよぎった。

「ふだんはいかにも脆そうにみえる人に、とうてい信じられないような剛胆なところが…たゆまぬ意地が、俄然あらわれてくる…なにか頑とした鉄石心みたいなものがとぐろを巻いてしまう」(「生と死の断片」『東の国から』所収、岩波文庫)

ハーンの論考は、日本という国家の在り方とその強みの生かし方にも及んでいる。曰く「(日本の)柔術の達人になると、最大の危機にのぞんでも、自分の力というものは、ほとんどつかわないのである。相手の力をつかうのである。敵の力こそ、敵を打ち倒す唯一の手段なのだ」(「柔術」『東の国から』所収、岩波文庫)。明治維新後の近代化は柔術の発想で推進されたという。先進的といわれた海外諸制度の導入にあたっては、自国の伝統や文化を大きく変えることなく、取捨選択していった。単純な直輸入ではなく、自国の制度との調和を工夫していったという。

「自分の国は、昔ながらのままにしておきながら、日本は、じつに敵の力によって、あたうかぎりの限度まで、自国を裨益したのである。あのおどろくべき国技、柔術によって」(「柔術」同上)。

ハーンがこのような印象をもった時代に、日本は富国強兵、殖産興業にまい進し、日清戦争を戦って、極東の遅れた一小国から、ようやく欧米列強に認知される中等国になりつつあった。不平等条約は治外法権の撤廃にこぎつけていた。その原動力は、軍事力と工業力というハードの分野で、西欧に追いつけ、追い越せという姿勢にあった。そんな時代風潮にあって、ハーンはハード(剛術)ではなくソフト(柔術)こそ、日本の最大の強みであると喝破した。「あの驚嘆すべき頭のいい自衛法で、あのおどろくべき国技、柔術によって、日本はこんにちまで自国を守りつづけてきたのだ。いや、現在も守りつづけつつあるのである」(「柔術」同上)。

その後の日本が剛術にこだわり、ハード面への自信とソフト面での焦燥感が錯綜するままに、悲劇的な大戦の結末を迎えた経緯は語るまでもない。

今現在、日本を取り巻く国際社会は、第二次大戦後最悪と言ってよい混乱と不安を抱えている。ロシアのウクライナ侵略は、20世紀の二度の世界大戦を超える5年目に入り、南米や中東ではトランプ政権のアメリカが予測不能な武力行動に出ている。同政権の政府高官の記者会見は、昔の西部劇のならず者と勘違いするような調子である。かの国はこんな乗りで日本への原爆投下を決めたのだろうか。日本から至近距離の北朝鮮の危険性は不変で、一衣帯水の中国との関係は悪い。

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川村雄介の飛耳長目

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