しかも今や日本は大国ではない。GDP世界第2位というかつての経済大国の立場はとうに失われた。安全保障ではアメリカが命綱のままである。外交面の影響力も小さい。
こんな日本の身の処し方については諸説あるが、私がいちばん腹落ちするのが130年前のハーンの慧眼である。自分からは決して仕掛けない。我慢するだけ我慢する。しかし、これ以上は耐えられないという臨界点を迎えたら、相手に自傷させる。相手が強ければ強いほど、相手の力を逆手に取るのだ。あたかも映画『ベスト・キッズ』に登場する初老の小柄なMr. Miyagiが、マーシャル・アーツの巨漢を投げ飛ばすように。
ただ、柔術は無為で使えるものではない。達人の水準に至るには、血のにじむような肉体の鍛錬と稽古が不可欠である。外見は華奢でも、秘めた強靭な筋肉と敏速な反射神経、相手の動きを瞬時に予測する洞察力をもたなければならない。
この点は、国の安全保障についても同様だ。見かけは羊でも、内面に熊のパワーとオオカミの俊敏さを宿していなければ、国の守りは不可能である。ここでもハーンの柔術論を復唱しておこう。
「痩躯軽身にみえるけれども、普通のレスリング士なんぞだったら、まず二分間で片輪(ママ)にされてしまうだろう。…おそろしい早業で相手の肩を脱臼させ、関節をはずし、腱を切り、骨なんか折っぺしょってしまう」(同上)
絶対に先に攻撃はせず、守りに徹する。だが、いざとなったら敢然と侵略者に立ち向かう。内実を伴う防衛の要諦を教えられる思いだ。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事、公益財団法人 日本証券経済研究所 研究顧問。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。


