他方で、米政権はそのような戦力の具体的内容を問わず、防衛関係費(支出)に着目し増額を求める。NATOは、10年間でコア防衛費をGDP比3.5%とすることを目指しているので、この基準に従うならば、今後5年間の予算規模を定める新たな日本の三文書でいきなりこの水準に到達することは目標とはならない。とはいえ、経済成長によって現三文書が名目額で設定した防衛費が同比で1.4%まで目減りしている事実を踏まえれば、10年で3.5%に到達するため、その半分の5年間で少なくとも2.5%程度まで増やさなければならない。2026年のGDP見通し(692兆円)を基にすれば、17.3兆円に及ぶ。
つまり、現三文書が策定前と比べて年額で3.5兆円の増額を達成したが、17.3兆円の到達には、次の5年間でさらに年額7.9兆円もの増額が必要な計算となる。これが日本の財政余力で可能なのかはいったん置くとしても、大胆な部隊・戦力構成の見直しを伴わないまま、これほどの増額を可能とする具体的な予算が積み上がるかは疑問がないではない。
安易な解決策がある。戦力構成の改革を小規模にとどめつつ、現在議論されている原子力潜水艦の導入などの大型事業を立てて予算規模を膨らませることだ。政治的にはこの誘惑が大きい。しかし、それで米政権が納得したとしても、中国は抑止されないかもしれない。そのような大型事業は導入まで相当の期間を要するうえ、人的制約ゆえ数を揃えられず、費用対効果が高いとは限らないからだ。
原潜取得は一定の意義があるが、より必要なのは、中国の脅威下でも自衛隊が活動できるよう、ミサイル・海上航空戦力、情報収集能力、無人機部隊を大幅に増強する改革であり、ミサイル攻撃に抗たん性をもつ航空機掩体の整備も不可欠だ。米政権の目線を、同盟国の相対利得ではなく習近平の野心に向けさせるため、戦略議論を日本がリードする必要もある。受け身の議論を続けてきた日本政治にとってこれが最もつらい。日本が直面しているのは、このようなこれまでとは性質の異なる課題だ。
小木洋人◎地経学研究所 主任研究員。研究分野は防衛・安全保障、戦略研究、防衛産業。2007年東京大学教養学部卒業、12年米国コロンビア大学国際関係公共政策大学院修士課程修了。外務省国際法局国際法課課長補佐を経て、防衛装備庁、整備計画局で第1班長を務め、防衛政策局調査課戦略情報分析室先任部員。2022年9月から現職。


