このプロジェクトが2012年に終了すると、ムチニックはチリ初の植物由来食品企業「Eggless」を創業した。ウォルマートやJumbo、Unimarcといった主要小売チェーンへの展開に成功した同社の卵不使用のマヨネーズは、2014年12月に同国で最も売れる代替マヨネーズとなった。ムチニックは翌年、この会社を小規模な形で売却し、その売却益を用いてNotCoを立ち上げた。
NotCoの着想は、Egglessでの経験から生まれた。ムチニックは、食品科学の研究施設で顧客と試作を重ねる中で、「行き詰まりに直面している」と感じたという。代替原料を探る過程で、コストや味覚体験、栄養価、製造のしやすさ、規制対応といった複数の要素を無数の組み合わせの中で同時に最適化することは、「人間の直感だけでは到底不可能だ」と気づいたのだった。彼は、NotCoを約25万ドルの資金のみでスタートし、最初の2年間は外部資金に頼らず事業を進めた。
「食品の配合設計は、応用科学の中でも特に知的負荷の高い分野だ」と語るムチニックは、その複雑さを、目隠しでチェスを指すようなものと例える。「認知科学には、チェスのグランドマスターに関する有名な話がある。目隠しで対局するグランドマスターは、盤面全体を記憶し、駒を一つも見ずに8手先まで読むことができる。人間の認知能力の極致とも言える見事な技だ。しかし、相手が対局用のAIを使っている状況では、それは有効なやり方ではない。2015年当時、そして多くの場合2026年のいまでも、CPG業界は『目隠しのグランドマスター』が集まったような状態だ。優れた人材はそろっているが、使っている道具が間違っている」
そこでムチニックは、適切なツールを開発するためニューヨークに移った。当初はAIプラットフォームの開発と並行して、ヴィーガンのマヨネーズやミルクなどを自社ブランドとして展開し、小売向けの事業の立ち上げに注力した。「消費者データと配合設計が完全に切り離されていた」と彼は振り返る。
ムチニックが初の大型投資を獲得したのは、2018年にブラジルのKaszek Venturesが主導した300万ドルの資金調達のときだった。
評価額10億ドル超えのユニコーンに
その後、資金は一気に流入した。2019年のシリーズBでは、ロンドン拠点のThe Craftoryやジェフ・ベゾスのBezos Expeditionsなどから3000万ドルを調達した。翌2020年には、パンデミックのさなかにもかかわらず8500万ドルを調達し、ベゾスの追加出資に加え、コネティカット州グリニッジに拠点を置くLキャタルトンなど、食品業界で実績を持つ新たな投資家も加わった。


