「いまは大手CPG(消費財)企業にとって、複数の悪材料が同時に重なり、事業環境が急激に悪化している局面だ。消費者の嗜好は、これまでにないスピードで変化している」とムチニックは語る。「さらに、カカオやオレンジジュースの供給の混乱や、ヘーゼルナッツの不足などが起きている。こうした原料への依存が、大企業の利益率を大きく左右している」
過去3年間の多くの食品企業の株価パフォーマンスは、S&P500を下回っている。ムチニックは、「背景にあるのは、大手企業が変化のスピードについていけていないことだ」と指摘する。
独自のAIで食品業界を変革
オランダのアグリテック系コンサルティング会社Bright Green Partnersのレポートによると、食品加工分野におけるAI市場は、2025年の150億ドルから2034年には1400億ドル(約22兆円)へと拡大する見通しだ。背景には、動物由来でない代替原料や、より低コストな素材を求める動きが、大手企業の間で広がっていることが挙げられる。
こうした課題を解決するのが、「Giuseppe(ジュゼッペ)」と呼ばれるNotCoのAIモデルだ。ムチニックはこのモデルの名称を、果物や野菜、花などを組み合わせて人の顔を描く幻想的な肖像画で知られるイタリアのルネサンス期の画家、ジュゼッペ・アルチンボルドにちなんで名付けた。「アルチンボルドが野菜を組み合わせて人間の姿を再構成したように、このAIは膨大な分子データを使い、これまで誰も思いつかなかった原料の組み合わせから新たな製品を生み出す」とムチニックは説明する。
Giuseppeはさらに、過去10年にわたる消費者データや配合データ、蓄積された知見や科学研究に加え、規制対応に関するデータセットなど、これまでAIで十分に分析されてこなかった情報も活用できる。「この業界は、基本的に情報を外に出さない。競争優位性は、配合の細部に深く埋め込まれている」とムチニックは語る。「企業は内部にノウハウもツールも持っており、外部の支援なしでも開発を進めることができる」
「だからこそ重要なのは、自分たちがどれだけの価値を生み出せるかを示すことだ。私たちにとって最終的な価値は、事業をどれだけ実行できるかにかかっている」とムチニックは付け加えた。
サンディアゴ生まれの起業家
ムチニックは、サンティアゴで銀行員の父と写真家の母のもとに3人兄弟の次男として育った。チリ大学を卒業後、彼はチリ政府の支援を受けたモバイルアプリ「Chooz」を立ち上げ、ウェルネス分野のゲーム化に挑んだ。このスタートアップは、運動や食事、瞑想といった目標を達成したユーザーに実際の報酬を与えることで、健康的な生活を促す仕組みを採用していた。


