大手企業が熱視線を送る「ハイブリッド構成」のデータセンター
こうした深刻なセキュリティ課題に対する最適解として、機微情報を扱う大手企業を中心に全く新しいアプローチが注目を集めている。それが、堅牢なデータセンターを活用した「ハイブリッド構成」によるAI利用である。
「弊社のデータセンターをご活用いただくお客様とお話しする中で、最近特に増えてきているのが『ハイブリッド構成によるAIの利用』です。いわゆる『学習されたくない重要情報』を自社のローカル環境(データセンター)に置き、クラウド上のAIと連携するエリアはデータが外に出ない形にして、AIのエンジンだけを使用する。そういった活用を希望する声が非常に高まっています」(今村氏)
具体的なシステム構成は、企業の事務所や本社と、高度なセキュリティ環境を誇る「HUB型データセンター」を安全な閉域網で接続し、データセンター内に企業専用の「ローカルLLM(大規模言語モデル)」を搭載したAIサーバーを構築するというもの。

「大規模なAIサーバーというと、すごいGPUを積んで非常に高価なものを想像されるかもしれませんが、企業が1社で利用するLLMであれば、そこまで大きなスペックは必要ありません。1台、2台程度の比較的安価なAIサーバーをローカルに置きます。そして、処理自体はすべてローカルで行い、クラウド上のAIからは、マシンラーニングの新たな計算手法など、バージョンアップに必要な情報のみを受け取る形にします。データ自体はローカルにあるまま、最新のAI機能を使用できるというわけです」(今村氏)
データの保管・処理は「ローカル(データセンター)」で徹底的に守り、AIの頭脳のアップデートは「クラウド」から恩恵を受ける。日本国内のデータセンターで環境を構築することで「データ主権」を完全に掌握しつつ、世界最高峰のAIテクノロジーを活用できるこのハイブリッド戦略は、情報漏洩を絶対に起こせない大手企業にとって、まさに待望のソリューションと言える。
進化するデータセンターの付加価値と中小企業にとってのジレンマ
この「HUB型データセンター」のポテンシャルは、単なるAIの実行環境にとどまらない。最新のデータセンターは、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を根底から支える「信頼のハブ」へと進化している。
例えば、生成AIと連携して大量の紙文書を電子化する「AI-OCR」システムや、各拠点からのデータを集約する「ファイルサーバー」も同一のセキュアな環境内に構築される。さらに、電子データの原本性を法的に保証する「タイムスタンプ/長期署名」機能の統合により、AIが処理したデータがいつ誰によって作成され、改ざんされていないかを永続的に証明することが可能になる。
「現実的な問題として、AIサーバーを安全に置けるデータセンターというのは実はそれほど多くありません。しかし、こうした比較的小規模なローカルAIサーバーであれば、弊社のような強固なデータセンターで安全に運用することが可能です」(今村氏)
ここまで、自社専用のローカルAI環境を構築する大手企業のハイブリッド戦略を見てきた。しかし、インフラ構築や運用におけるコスト・リソースが必要となるこのアプローチは、中堅・中小企業にとってハードルが高いのも事実だ。
このハードルの高さをさらに後押ししているのが、近年の凄まじい「建設コストの高騰」である。総務省のデータ(富士キメラ総研資料に基づく)によると、データセンターの1MWあたりの平均建設価格は、2021年の13億円から、2022年には17億円(前年比130.8%)、2023年には22億円(同129.4%)へと急激な増加傾向を示している。資材価格や人件費の上昇を背景に、ローカル環境を物理的に確保・構築する金銭的コストは、中堅・中小企業にとって以前にも増して重くのしかかっている。
そう悩む中堅・中小企業に向けた、もう一つの現実的な解決策が「SASE(Secure Access Service Edge:サッシー)」と呼ばれるクラウドセキュリティ・ソリューションの活用。
「会社でAI利用における基本方針やルールをしっかり作ることは大前提として必要です。しかし、ルールだけではAIによる情報漏洩を完全に防ぎきれません。そこで最近では、SASEなどのソリューションを使ってAIの利用をシステム的に制御していく流れが出てきています。DLP(データ損失防止)機能を用いて機密情報の流出をブロックしたり、安全なAIだけを許可したりと、SASEを活用して安全にAIを使わせるというアプローチです」(今村氏)
SASEという「クラウドの関所」を設けることで、中堅・中小企業はローカルにサーバーを持つコストを抑えつつ、安全にクラウドAIの恩恵を享受することが可能になる。


