湖面をのぞき込んで魚の産卵場所を見てみると、表面上は、ひれで水しぶきを上げたり、尾びれを扇のように広げたりと、魚たちがただ入り乱れているだけのように見える。オスは自分の巣を守り、メスは卵塊の様子を見守り、水中ではさまざまなことが起きていてにぎやかだ。しかし、気づいていない人が多いだろうが、そうした騒ぎの裏側では、世界で最も奇妙なものの一つである進化戦略が繰り広げられている。
青い斑点を持つ淡水魚ブルーギル(学名:Lepomis macrochirus)には、ライバルと真っ向から勝負することを避けるオスがいる。自分で巣を作らずに、メスの姿かたちや行動をまねて、優位なオスが守っている産卵場所に入り込もうとするオスだ。
繁殖を目指した競争が激しくなると、多様な交配戦略が出現する。ブルーギルのオスによるこうした行動は、その好例だ。
ブルーギルには、3つタイプのオスが存在する
ブルーギルは、北米各地の池や湖、流れの穏やかな河川でよく見かける小さな淡水魚だ。産卵期になると、鮮やかな婚姻色を帯び、複雑な社会行動を取ることで知られている。
生物学者がこのブルーギルに強い関心を寄せる理由は、オスのブルーギルが複数の繁殖戦略を採用している点にある。『Advances in the Study of Behavior』に掲載された研究論文で説明されているように、ブルーギルには3つタイプのオスがいる。
1. 保護オス(Parental males:別名「縄張りオス」):体が大きく、自分で巣を作って守り、メスに対して求愛行動を取り、卵や幼魚の世話をする。
2. スニーカー型のオス(Sneaker males:「こそこそ行動するオス」の意味):体が小さめで、巣を作らずに、メスが産卵したタイミングを見計らってこっそり忍び寄り、素早く放精する。
3. サテライト型のオス(Satellite males:衛星型のオス、別名「メス擬態型のオス」:メスの体格や体色、行動に擬態して産卵場所に紛れ込み、保護オスからの攻撃を避ける。
こうした戦略はどれも、複数のブルーギル個体群で確認されており、研究者はそうした戦略による繁殖成功率を定量化している。
保護オスは、繁殖場所である縄張り維持に大きなエネルギーを費やす。太陽光が当たる浅瀬の底の砂利に巣を掘って、ライバルのオスを追い払いながら、卵を産んでもらうためにメスに求愛する。そして、メスがやって来て産卵したら、巣を守るオスとメスが共同で受精させる。オスは、産卵後も巣を守りながら、数日間にわたって卵に酸素を供給し続けることが多い。
しかし、このようにして縄張りを守ることには、進化的に大きな代償が伴う。ブルーギルのオスは体が大きく、攻撃性も強いため、縄張りを見張るためにはさらなるエネルギーが必要だ。その結果、別のオスにこの繁殖体制を悪用するチャンスを与えてしまう。
サテライト型のオスは、体格が中くらいで、メスの体色と泳ぎ方をまねることで、優位なオスとの直接対決を避けている。要するに、保護オスが本物のメスにせっせと求愛しているすきに、産卵場にこっそりと紛れ込み、メスが産卵した時に精子を放出するのだ。
端的に言えば、こうした戦略を用いると、サテライト型のオスは、保護オスから追い払われにくい。保護オスが、競争相手のオスではなく、メスだと認識するからだ。さらに保護オスは、縄張りを守ったり子どもの世話をしたりすることにエネルギーを費やすが、サテライト型オスは、隠密行動をしたりタイミングを推し測ったりすることに力を入れる。どちらの場合でも、リスクは最小化され、繁殖の成果は最大化される。



