欺くことで成果を得られるのはなぜか
生物の世界にあまり詳しくない人には、保護オスの方が常に優位に立てると思えるかもしれない──メスと卵を確保できるからだ。しかし進化的な成功は、縄張りを守ることだけで測れるものではない。遺伝子をどれだけ後世に残せるかということも重要だ。
前述した研究でも説明されているように、生物学から発展してきた進化ゲーム理論では、条件が異なっていても同じような繁殖の成果が得られるのなら、複数の繁殖戦略が共存し得ることが示されている。この概念は「進化的安定戦略」と呼ばれている。つまり、一連の行動がいったん確立されたら、繁殖成功のつり合いがとれるため、代わりの戦略に容易に置き換えられなくなるということだ。
保護オスが多く、産卵の機会が少ない個体群の場合は、巣を作る場所を巡る競争はとりわけ激しくなる。こうした条件下では、対立を回避して、通常なら手の届かないチャンスを得ることで、スニーカー型オスもサテライト型オスも、比較的高い繁殖の成果を達成できる。
何よりも重要なのは、研究者が、スニーカー型オスとサテライト型オスの受精成功率を測定可能なかたちで確認したことだ。このような代替的な繁殖戦略が非常にうまくいくことを示した好例と言える。
ブルーギルに限らずほかの魚の場合でも、オスの代替的な表現型(遺伝子や環境の影響を受けて現れた生物の姿かたちや行動などの形質や特性)が発達する背景には、生理学的な根拠がある。オスが代替的な繁殖戦略を持つ多くの魚の場合、成長過程のホルモンバランスの違いによって、成長した時の行動や体色、生殖生理が変わってくる。
同じく、テストステロンやほかのアンドロゲン(男性ホルモン)も、成長や二次性徴で大事な役割を果たしている。ブルーギルの場合、オスがどの戦略を採用するかは、成長のタイミングや社会的な環境によって左右される。
成長が早かった場合は、保護オスになる可能性が高い。一方、性的に成熟しても体格が小さいままのオスは、スニーカー型オスかサテライト型オスになる傾向がある。注目してほしいのは、こうした現象がブルーギルに限らず、多様な交配戦術を持つほかの魚でも観察されていることだ。
こうした戦略は、長い世代にわたって続いてきた。それはつまり、特定の生態学的な条件においては、そうした方法が進化的な成功につながったことを意味している。


