サイエンス

2026.03.26 18:00

「男性も乳汁を出す」という科学的真実 ヒトの体に隠された驚きのメカニズム

Shutterstock.com

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オスの乳汁分泌は通常、空想的な生物学関係のフォーラムで議論されるような話題だ。しかし、進化生物学の分野がもたらす驚きの意見は、一定の条件下では、ヒトの男性でも乳汁が生成されることが実際にあるというものだ。

ヒトや大半の哺乳類ではこの現象は非常にまれだが、こうした種のオスでも、生物学的には乳汁を生成する能力を確かに保持している。しかも、哺乳類の少なくとも2種では、この能力が自然な状態で発現することが知られている。

その理由を解き明かすには、哺乳類の生殖に関する生物学の領域に、より深く踏み込む必要がある。ホルモン、進化、そして発育過程という要素が絡む領域だ。以下では、科学的研究から、現時点で判明していることを解説していこう。

オスによる乳汁分泌の生物学的メカニズム

哺乳類において乳汁の生成をコントロールするのは、第1にプロラクチンというホルモンで、第2に、乳汁の分泌を制御する神経反射だ。

乳腺は、進化の初期段階で哺乳類に備わった、皮膚にある特別な腺であり、ホルモンのシグナルに反応して、子どもの命を支えるのに必要な栄養が豊富に含まれた母乳を生成する。

世間一般の認識とは異なり、乳汁を分泌して子どもに与えるために必要な解剖学的器官は、両性に備わっている。ヒトの男性にも、胎児の発達段階で、痕跡的な乳腺組織と共に乳首が形成されている。

特筆すべきは、これらの組織が形成されるのが、胎児成長の初期段階であり、性分化の前に起きている点だ。発育の段階において、性ホルモンによって男女の体の違いが生まれるのは、その後のことだ。

乳汁の分泌には、2つの主要なホルモンが絡んでいる:

・プロラクチン:乳汁の生成を促す
・オキシトシン:乳汁の分泌のきっかけとなる

実は、男性の体内でもプロラクチンが作られているが、この点はほとんど知られていない。女性と比べるとベースとなるレベルはかなり低いものの、理屈の上ではこれらの器官が、乳汁の分泌という務めを果たすことが可能な量のホルモンは分泌されている。より簡単に説明するなら、男性の体では、乳汁の分泌を促す「燃料」は欠けておらず、むしろ分泌のきっかけとなる「点火装置」がない、ということだ。

男性で乳汁分泌が起きるケースとは

まれな臨床例ではあるが、この乳汁分泌プロセスが「点火」される可能性はあり、実際にそうした現象も起きる。こうした症状は「乳漏症」と呼ばれ、妊娠・出産後に生じる通常の乳汁分泌とは無関係に、自然に乳汁が漏れ出る現象を指している。

注目すべきは、この乳漏症が、プロラクチンの血中濃度が乳汁の放出を促すほど急上昇した場合に、男女両方に起きるということだ。乳漏症が発生することには、臨床的にはさまざまな理由があるが、たいていの場合は、以下に挙げる状況の副作用として起きるものだ:

・特定の抗精神病薬の服用:ドーパミンシグナル伝達に干渉するタイプの薬が、これに当てはまる。ドーパミンは通常、プロラクチンを抑える働きを持つからだ。

・「プロラクチノーマ」と呼ばれる下垂体腫瘍:下垂体はプロラクチンを分泌する器官であり、プロラクチノーマになるとプロラクチンが過剰生産される。

・慢性の肝臓病:こうした病気では、女性ホルモンであるエストロゲンの分解能力が損なわれ、体内のホルモンバランスが崩れる。

・長期の絶食状態を経たあとの急激な栄養回復:これは、第二次世界大戦時の戦争捕虜に見受けられた状況だ。栄養回復をきっかけに、視床下部および脳下垂体による制御が激変し、プロラクチンの分泌が再び活発になる。

こうした症例が医学的に大きな意味を持つのは、男性の乳腺組織が、厳密な意味では完全に退化しているわけではないことを明らかにしているからだ。この組織が、乳汁を出す能力を保持していることははっきりしている。ただし我々が知る限り、その能力が解き放たれるのは、一部の疾病に罹患した時に限られているようだ。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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