大半のケースでは、自然選択によって、いずれエネルギー配分が最適化されるものだ。つまり、自然の進化の過程において、オスによる乳汁分泌が二つの種でしか生じていないことから考えると、少なくとも進化という文脈においては、乳汁を分泌する能力が片方の親に限られている方が効率が良いということだ。
とはいえオスのホルモン系が、乳幼児期の子育てから完全に切り離されているわけではない。両親が子育てに参加する習性で知られるサルの一種、コモンマーモセット(学名:Callithrix jacchus)に関する、『ネイチャー』誌に掲載された著名な研究論文では、小さな子どもを背負って運んだり世話をしたりするオスでは、プロラクチンの分泌レベルが、子どもがいないオスと比べて約5倍に高まっていることが判明した。
しかし、こうしたプロラクチン値の上昇は、乳汁を生成するように働くわけではない。むしろ、行動の変化を形作っているようだ。つまり、攻撃的な行動が減り、幼い子との絆を感じさせる反応が増え、子どもの世話への意欲をかきたてるように作用している。
その後の研究で、ヒトの父親でも同様に、子どもが生まれる時期になるとプロラクチン値が上昇することが確認されている。この傾向は、子どもの世話に積極的に関わっている男性で特に顕著になるという。
このことから、乳汁分泌に関するホルモンのメカニズムが果たす役割は、単に乳汁の分泌を促すだけにとどまらないことが示唆される。こうしたホルモンは、子どもに対する親の愛着を形作る、より広範な神経生物学的生態の中に織り込まれているようだ。そして、たとえ乳汁が生成されないとしても、男親においても、この部分は活性化されている。
オスも乳汁を分泌するように進化する可能性は?
将来的に、オスが乳汁を分泌するように進化する可能性の有無を知っておきたい、という人も多いかもしれない。この疑問への答えは、「理論上はあり得る」というものだ。
進化生物学の専門家はしばしば、オスの体にはすでに、乳汁分泌に必要なメカニズムのほぼすべてが備わっていると指摘する。休眠状態とはいえ、乳腺組織はいまだにオスの体に存在している。これは生物にとって、たとえ用はないとしてもある機構をスタンバイ状態にしておく方が、必要になった時に一から再構築するよりもコストが安く済むケースが多いことを示す例だ。
乳汁分泌に関する遺伝子的・発達的機構が両性にすでに備わっているのは、あらゆる哺乳類にとって共通の祖先に、これが存在していたからだ。これは、性差が今のようにはっきりと現れるはるか前の話だ。
ゆえに、オスからこの構造を完全に取り除くとなると、進化の道筋で多くの連動的な変化が必要になるだろう。そうした変化はすべて、種の生存に役立つ見返りをほとんどもたらさない。特に、こうした構造に顕著な害がないことを考えればなおさらだ。
オスにも乳汁分泌のメカニズムは確かに存在するものの、これを使わなければならないような事態は、まず起きないはずだ。だが、そうした事態が発生した際に何をすべきかについては、体はきちんと心得ているのだ。


