映画

2026.03.25 15:15

韓国では誰もが結末を知る悲劇を描いた「王と生きる男」が大ヒットする理由

ソウルにある朝鮮時代の宮殿「昌慶宮」の正殿「明政殿」(Richie Chan - stock.adobe.com)

歴史認識や倫理感情の表現装置

『王と生きる男』が生み出した反響としては、舞台となった寧越への「巡礼ブーム」と歴史ツーリズムの再発見がある。

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江原特別自治道・寧越郡は、ソウルからは車で約3時間、端宗が流刑された清冷浦および彼が眠る寧越章陵を擁する地方都市である。古くから修学旅行や歴史探訪の定番コースとして知られてきたが、『王と生きる男』の公開を機に、その意味は大きく変わった。映画を観た観客が、端宗の足跡をたどる巡礼者として現地に押し寄せているのだ。

韓国のテレビ番組やオンラインメディアは、映画のロケ地と史跡をつなぐ「寧越・端宗コース」を特集し、観光ルートとして可視化した。観客は、清冷浦の急峻な崖や、端宗の冥福を祈るために建てられた施設を訪れながら、スクリーンで見た光景と現実の風景を重ね合わせる。

興味深いのは、こうした巡礼の形がデジタル空間にも反映されている点だ。寧越章陵など端宗関連施設のレビューサイトには、映画を観てから訪れたというユーザーによる熱のこもったコメントが相次ぎ、最高評価とともに端宗への同情と敬意が綴られる。

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一方で、王位を奪った世祖の陵に対しては、歴史への怒りや複雑な感情を込めた低評価レビューが付けられることもあるという。

ここでは、歴史的な評価や感情が、観光レビューというプラットフォームを通じて可視化されている。旅行プラットフォーム上の星の数が、単なるサービス評価を超え、歴史認識や倫理感情の表現装置として機能しているのだ。

さらに、寧越のカトリック教会周辺では、端宗の悲劇とキリスト教的受難のモチーフを重ね合わせた「巡礼路」が再解釈されつつある。信仰と映画と歴史が連結し、「悲劇の王」をめぐる物語が精神的な意味づけを帯びながら、地域観光の新しい形を生み出している。

歴史ツーリズムは、ここで単なる過去の消費ではなく、感情と倫理の体験として再発明されていると言える。

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文=アン・ヨンヒ

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