メッセージアプリ界の「第三の波」とも呼べそうなKikが、その存在感を増しつつある。2009年に設立されたKikは既に2億4000万人の登録ユーザーを獲得。その特徴と言えるのがティーンからの支持の高さだ。同社によると米国の10代の40%がKikを利用している。
Kikのビジネス開発部門のアンソニー・グリーンは先週、米国の広告メディアの経営幹部が集まる会議Advertising Weekのパネルに登壇。「モバイルメッセージングにおけるブランドの認知度」と題したディスカッションに参加し、同社の戦略を述べた。
ライバルはLINE、カカオ、WeChat
KikはWeChatやLINE、カカオトーク等のアジアの巨人たちをライバルに見据え、Facebook MessengerやWhatsAppとの競合も視野に入れている。
今夏、Kikは中国のテンセントから5000万ドル(約60億円)の出資を受けた。テンセントはKikの市場価値を10億ドル(約1200億円)と見積もった。しかし、カナダのオンタリオ州に本拠を置く同社は、まずは北米でのサービスの浸透と、他社との差別化を念頭に置いている。
「Facebook Messengerは部屋の中の巨大なゴリラのような存在だ。彼は全ての人の関心を集めようとしている。しかし、我々が惹きつけたいのは米国のティーンエージャーだ」(Kik社、アンソニー・グリーン氏)
これを実現するため、Kikはその利用に関する全てのハードルを取り除こうとしている。利用登録には電話番号を必要とせず、ユーザー名のみでアカウントが作成できる。電話番号を用いないことで、利用者はもし誰かをブロックしたい場合、相手が電話番号を知っているかどうかを気にする必要が無い。
「Kikではアカウント名を電子メールアドレスのように使える。誰かとチャットをしたければ、Kikのユーザー名を教えるだけで済む」
10代は多くの収入を持たないとしても、家族の購買動向に影響を与える。1995年以降に生まれたジェネレーションZは、年間440億ドル(約5.2兆円)の購買力を持っているとマーケティング企業J. Walter Thompsonは試算した。Kikはまた、企業ブランドが若いユーザーにアピールすることを支援し、そのブランドの将来の売上に貢献する。
邪魔なバナー広告は掲載しない
Kikは約1年前に同社のプラットフォームの広告利用を開始した。しかし、広告がユーザー体験を劣化させないよう、慎重に進めたという。例えば、アプリ内のバナー広告や全画面広告は使用していない。
「会社の同僚はみんな20代だが、若いユーザーがどう思うかを、やりすぎと思えるほど真剣に考えている。Kikユーザーにブランドを訴求するには、本当に慎重に考えなければならない」
Kikの収益源は現状でプロモーションチャット(Promoted chats )とブランドステッカー(branded stickers)の2つだ。これまで約1600万人のユーザーがブランドとチャットを行った。これは“チャットボット”と呼ばれる機能で、人口知能(AI)とユーザーが会話を行う。Kikは今年この機能を立ち上げ、映画「Insidious 3」やビデオゲームのキャラクターとメッセージ交換をさせた。
2015年7月にはKikユーザーの3分の1近くがチャット上でブランドとのやり取りを行った。Facebook Messengerのユーザーの広告接触率は13%(GlobalWebIndexの調査)という。また、KikにはJamと呼ばれる音楽サービスも存在し、チャットボットがユーザーの音楽の好みを学習し、趣味が似たユーザーと繋がることができる。
グリーンは「10代にとってはテキストのメッセージのやりとりが全てだ。相手がボットであっても上質な体験なら喜んでチャットする」と述べた。
メッセージング広告はバイラル力が強い
メッセージングは出稿主にとっても魅力的なメディアだ。個人に訴えかけるメッセージはSNSを通じた拡散よりも深いエンゲージメントを産む。露出回数は少ないかもしれないが、より長い滞在時間を発生させるとグリーンは言う。彼は最近実施したデルの広告キャンペーンについて説明した。その取り組みではKik経由で18万回のダウンロードが発生し、そこから送信されたメッセージは150万件に及んだ。ダウンロード数に対するメッセージ送信件数の比率は1対8であり、友人間のシェアがいかにバイラル力が強いかを実証した。
広告関連のスタートアップ企業、Swyftと取り組むステッカー広告キャンペーンも、Kikのもう一つの人気商品だ。出稿主らは高度にクリエイティブなカスタムステッカーが作成可能で「ユーザーはそれを友人に送ることを楽しんでいる」とデルの広告担当者、Linは述べた。
Swyftの担当者はステッカー広告に関して「この手法はユーザーのメッセージに割り込むのではなく、新たな付加価値を与えている。ユーザーは本当にステッカーを気に入って、友人とシェアしている」と述べた。
参加者からは「現状の仕組みでは、モバイル広告の効果測定が難しい」という意見も聞かれた。デルの担当者もこの点には同意した。しかし、1ダウンロードあたりのシェア回数や、ダウンロードが発生するまでの時間等、新たな効果測定指標も生み出されようとしている。
グリーンはKikが今後、ユーザー同士がリアルの場で会えるイベントや、アプリ経由の寄付等の新たな取り組みを進めていくことにもふれた。
「メッセージングこそが、今の業界にとっての最重要事項になった。広告主たちは今後どういう戦略をとるべきか考える必要がある」と彼は述べた。