米国のテクノロジー業界では、先端半導体の輸出規制やTikTokのデータ監視問題など、安全保障を理由とした中国系企業への警戒感が定着している。
政治レベルではデカップリング(分断)が懸念される一方、米国のAI産業は依然として中国系のトップ人材に大きく依存しているのが実情だ。
実際、AI開発の現場であるシリコンバレーでは近年、中国で実績を積んだAI起業家が拠点を米国へ移す動きが目立っている。オープンソースのAIアプリ開発ツールを手がける「Dify」のCEO、張路宇(チャン・ルーユー)もその1人だ。
彼らが規制リスクを抱える米国へ渡る理由は、極めて実利的である。グローバルなAIインフラストラクチャーを構築するためには、世界で最も資本と人材が集中する環境で競争する必要があるという、経営判断に基づいている。
英語は話せない、それでも中国のAI起業家はシリコンバレーへ向かう
中国出身の起業家、張路宇(チャン・ルーユー)は、中国で事業を立ち上げながらも、米国で勝負に出る新世代のスタートアップ創業者の1人だ。張は2025年、中国から米国に移住したが、英語はほとんど話せない。しかも、現時点ではそれを改善しようともしていない。
「今は仕事で手いっぱいで、英語を上達させている余裕はない」と彼は通訳を介してフォーブスに語る。メンロパークの仮オフィスで取材に応じた張は、「英語の習得には時間がかかるが、現在は1日たりとも無駄にできない」と続けた。
人工知能(AI)スタートアップ「Dify(ディフィ)」のCEOを務める張は、ここ最近増加中の、家族や会社を丸ごとシリコンバレーへ移す中国のAI起業家の1人だ。しかし、この動きは一見すると、理解しがたいものにも思える。米国政府は、先端AIチップの輸出規制を強化しており、米議会は長年にわたり知的財産の流出や中国の軍事・経済的野心に警戒感を示してきた。米中間では、デカップリング(分断)をめぐる議論も絶えない。
約48億円を調達、開発者向けAIツールとして存在感を高めるDify
それでも、起業家は米国へ向かい続けている。張の考えは明快だ。「グローバルなAIインフラ企業を構築したいなら、世界の競争の中心に身を置くべきだ」と彼は考えている。中学を中退後に、「プログラミングの神童」と呼ばれるようになった張が設立したDifyは最近、評価額1億8000万ドル(約288億円。1ドル=160円換算)で3000万ドル(約48億円)を調達した。参加したのは、HSG(旧セコイア・キャピタル・チャイナ)やGL Ventures、5Y Capital、みずほフィナンシャルグループ傘下の投資会社Mizuho Leaguer Investmentなどアジアのベンチャーキャピタル(VC)だ。
Difyの創業前に複数のスタートアップで働いた張は、テンセントで大規模なエンジニアチームを率いた経験を持っている。
黒字化を達成、280社以上の企業顧客を抱えるまでに成長
創業当初、Difyは開発者が膨大なバックエンドコードを書かずに、ローコードのインターフェースでAIアプリを構築できるオープンソースのプロジェクトとして始まった。現在ではGitHubでスター数上位52位に入る人気プロジェクトとなっている。従業員数が100人規模に成長した同社はすでに黒字化しており、280社以上の企業にサービスを提供している。顧客にはボルボやサーモフィッシャー・サイエンティフィック、ノバルティスなどが含まれる。



