中学でコーディングの仕事を始め、中退──生成AIと出会いDifyを立ち上げ
安徽省で育った張は、中学生になる頃には、ウェブサイトのコーディングの仕事で、公務員だった父親の収入を上回る月約1000ドル(約16万円)を稼いでいたという。彼は中国特有の厳格な教育制度に耐えられず中学を中退したが、すでに経済的に自立していたため、両親も復学を強制できなかった。2018年にテンセントでプロダクト責任者のポジションに就いた張は、2022年に生成AIと出会ったことをきっかけに、開発者がAIアプリを大規模に構築・運用しやすくするためのDifyを立ち上げた。そして、エヌビディアの年次カンファレンス「GTC」に参加したことが、米国への移転を決断する契機となった。
「米国では、エネルギーの質がまったく違った」と張は振り返る。
技術移転への警戒感が高まり、中国系スタートアップへの風当たりが強まる
もっとも、乗り越えるべき課題は数多くある。米国の政策当局は、中国のAI分野への技術移転への警戒を強めており、中国資本が入ったスタートアップへの投資を避ける米国の投資家もいる。また、シリコンバレーの一部では反中感情もくすぶっている。最近では、Anthropic(アンソロピック)に所属していた中国出身のAI研究者が、同社の「反中国的な発言」を理由の1つとして退職したとブログで明かしていた。
Difyは「センシティブな分野」に当たらず、慎重でバランスの取れた見方が必要と指摘
AIと中国人起業家をめぐる議論について、張はより慎重でバランスの取れた見方が必要だと指摘する。国家安全保障への配慮は当然必要だが、すべてのAI製品が同じリスクを持つわけではないと彼は述べる。Difyはオープンソース製品であり、顧客が自社サーバー上で運用するケースが一般的なため、「センシティブな分野」には当たらないと張は主張する。アルゴリズムによる影響力を持つ消費者向けプラットフォームや、輸出規制の対象となる最先端チップを開発する企業とは性質が異なると彼は述べる。
「人々はCESに行けば、中国製の家電を何の問題もなく買っている」と張は語る。
少なくともAI分野では、中国出身の研究者の多くが米国にとどまり続けている
そして、中国出身の人材は、テクノロジー業界で確かな存在感を示している。米国のスタートアップは、これまでも中国出身のAI人材に大きく依存してきた。カーネギー国際平和財団による2024年12月調査によれば、2019年時点で米国の大学や企業に所属していた中国出身のトップAI研究者100人のうちの87人が、2024年12月時点でも米国にとどまり、帰国したのは10人のみだった。また、メタのSuperintelligence Labsの創業チーム11人は全員が移民出身で、そのうち7人が中国生まれだ。
このように、米国政府と中国の関係が一段と距離を広げつつある中でも、少なくともAI分野においては人材の分断は起きていない。ダイは、過度な警戒一辺倒の見方から脱却しつつ、適切な監視を維持する必要があると指摘する。
「AI業界で中国人が何をしているのかと懸念する声があるのは理解している」とダイは語る。「それでも、こうした優れた起業家を受け入れる方法を考えるべきだ。彼らは次世代のAI企業をここで築こうとしており、それは我々全員に利益をもたらす」。
イデオロギーではなく、優れた製品を作るために競争したい
張のような創業者にとって、この問題はイデオロギーではなく実務の問題だ。AI人材と資金、そして野心が最も集まる場所がシリコンバレーである以上、彼にとって選択肢は明確だ。彼はAI競争においてどちらかの側に立ちたいのではなく、単にその舞台で競争したいと考えている。
「中国から米国に来る起業家は政治的な動機で動いているわけではない。我々は、人々に使われる優れた製品を作りたいだけだ」と張は語った。


