テクノロジー

2026.03.24 17:15

楽器シェア世界一を武器にシリコンバレーを席巻する。ヤマハ/YMIが明かす「ナンバーワンの掛け算」

実際にこの「掛け算」の力により、YMIには世界中からトップクラスのスタートアップが引き寄せられている。数十億ドル規模の未払い印税を取り戻す金融インフラ「Mogul」や、数千万人の無名クリエイターのライブ配信を直接収益化する「Nero」など、これまでの楽器事業の枠を越えた、巨大な「クリエイターエコノミー」の勝者たちと次々に強力なタッグを組むことができているのだ。

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これは、Forbes JAPANの読者である多くの日本企業にとっても極めて重要な視点だ。日本の企業は自社の実績を謙遜しがちである。しかし、どんなニッチな領域であっても、「自社がナンバーワンである領域」を見つけ出し、それを真っ先に名乗るべきだ。ナンバーワン・オンリーワンのアセットと、業界を超えたポテンシャルの「掛け算」こそが、世界で対等に話をするときの最強の交渉カードになるのである。

600億円の戦略投資と、新しいクリエイターエコノミーの景色

ヤマハが狙うのは、既存の「総合楽器メーカー」という枠の破壊だ。2025年4月からスタートした新中期経営計画「Rebuild & Evolve」において、ヤマハは「未来を創る挑戦(Evolve)」として、新規・隣接領域に600億円もの戦略投資を行うことを発表した。そして、3年間で20件の新規事業(サービスイン)を生み出すという強力なコミットメントを掲げている。

このEvolveを牽引するYMIが目指す「新たなクリエイターエコノミー」の景色は、実にエキサイティングだ。

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例えば、杉野氏が注目しているスタートアップの中には、PlayStation 5のゲームコントローラーを使って直感的に音楽を作成できるシステムを開発する企業がある。楽器の演奏経験がない子どもたちやゲームファンが、慣れ親しんだコントローラーの操作で、次々とプロ顔負けのトラックを生み出していく。音楽制作のハードルが劇的に下がる未来だ。

さらに、「Yamaha Creator Pass」の構想も進化を続ける。単なるツールの詰め合わせではなく、楽曲・音声コンテンツの制作から配信はもちろんのこと、AIを用いたアルバムのジャケット写真の生成、プロモーション動画の制作、さらにはアーティストのグッズの制作・販売まで、クリエイターの活動の一連のプロセス(クリエイタージャーニー)を一気通貫でサポートする世界を見据えている。

「誰もがクリエイターになれる時代」において、ヤマハは130年を超える伝統に甘んじることなく、自前主義の壁を壊し、シリコンバレーや世界のスタートアップの中へと自ら飛び込んでいった。

日本の大企業が、自社のアセットを正しく洗い出し、見立てを変え、本気でリスクを取って事業を創造すれば、これほどまでに世界を熱狂させることができる。ヤマハと杉野祐介氏の挑戦は、日本企業がグローバルで存在感を放つための、一つの美しく、そして力強い解答である。

文=西村真里子

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