私はここに、今後のビジネスの新しいスタイルを見る。CVCこそが、多種多様なスタートアップや他VCとのネットワークを持ち、業界全体の課題やトレンドを最も高い解像度で俯瞰できるポジションにいる。だからこそ、ただ投資して終わり、ではなく、CVC機能と売上目標を持つ事業開発機能が密連動コミットする。この動きは、日本の大企業における新規事業のあり方に一石を投じるはずだ。
見立てを変えれば、市場は無限に広がる
しかし、シリコンバレーという世界のトップ・オブ・トップが集まる投資の舞台において、「音楽」というドメインで戦うことは決して容易ではない。
杉野氏は現実をこう語る。「あえてシビアな現実を言うと、音楽のパワー自体は素晴らしいものの、ビジネスの市場規模という点では、DeepTechやAI、あるいはハリウッド映画などに比べると、実は1桁も2桁も小さい業界だと言われてしまいます」。
投資の世界では、どうしてもTAM(獲得可能な最大市場規模)で比較されてしまう。だが、彼はそこで思考を止めなかった。音楽の市場を「音楽業界」の中に限定するから小さく見えるのだ。
「音楽産業自体は小さく見えても、音楽は決して音楽業界だけで終わるものではありません。例えば『オフィスのBGM』という捉え方をすれば、あらゆる空間やビジネスで使われる巨大なポテンシャルを持っています」。
見立てを変更するだけで、音楽は巨大なB2B領域を攻められるビジネスへと変貌する。業界の枠を超えた「用途の広がり」を再定義すること。これが、シリコンバレーで戦うための第一歩だった。
世界で戦うための「ナンバーワンの掛け算」
そして、この無限のポテンシャルを具現化するために不可欠なのが、日本企業が持つ「ナンバーワン」という武器だ。杉野氏はYMIを立ち上げる際、まず自社のアセットの洗い出しを徹底的に行った。
そこから導き出されたのが、「世界ナンバーワンの楽器売上シェア」と「世界各国にいる800万人の会員」という圧倒的な強みである。
どんなに音楽の可能性を語っても、もしヤマハが業界3番手の企業であれば、トップVCやプラットフォーマーは「一番のところと話すからいい」と相手にしてくれない。しかし、音楽の普遍的な広がりに対して、「圧倒的ナンバーワン」である事実を真っ先に提示することで、相手は本気で耳を傾けるのだ。


