審査会では、生演奏を交えながらスタートアップが自らのストーリーを熱く語るという、これまでにない、ヤマハらしいピッチが展開された。言葉の壁や国境、文化の違いを超えて、音楽という共通言語が人々の心を一瞬にして一つに結びつけていく瞬間を、私は肌で感じた。
音楽には、分断された世界を繋ぎ、人々をまとめる圧倒的な力がある。これこそが、ヤマハが世界中に提示している新しい価値なのだ。
私がこれまでCESなどで目の当たりにしてきた一般的なAIスタートアップの潮流とは異なる、『音』が持つ未知の広がりをそこに見た。この計り知れないポテンシャルの源泉に迫るべく、今回Forbes JAPANのコラムに書かせていただくべく、ヤマハの扉を叩いたのだ。
CVCが「売上責任」を持つという新たなビジネスモデル
このヤマハのグローバルな躍進の裏には、我々日本人が当たり前に考えている「ヤマハ」という存在を、世界レベルへと押し上げている男がいる。シリコンバレーに拠点を置くYamaha Music Innovation, YMIのCEO、杉野祐介(スコット)氏だ。
彼が率いるYMIの挑戦は、非常に面白く、そして異端である。通常、大企業のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)といえば、スタートアップに出資し、本体事業とのシナジーを探る「協業の窓口」にとどまることが多い。しかし、杉野氏は違う。CVCでありながら自ら売上責任を持ち、独自のサブスクリプションサービスを立ち上げてしまったのだ。それがSXSWで発表された「Yamaha Creator Pass」である。
このサービスは、Output社やLANDR社、Groover社、Riverside社などの音楽・ポッドキャスト制作ツールを一つにまとめ、月額14.99ドルから利用できる統合型プラットフォームだ。
杉野氏によれば、このプロジェクトは投資先から日々学んでいたクリエイターエコノミーの知識を総動員し、わずか1〜2週間で企画を立案。急ピッチで予算を獲得し、たった5カ月という驚異的なスピード感で着想からSXSWでのリリースまでこぎつけたという。
杉野氏は言う。「自らがリアルなビジネスの実態を持ったことで、吸引力が投資だけの時の3倍ぐらいに跳ね上がりました。『Yamaha Creator Pass』リリース直後からパートナーにしてくれという声が殺到しています」。『Yamaha Creator Pass』における、AdobeやSoundCloudといったグローバルプラットフォーマーとの提携自体も驚きではあるのだが、このパートナーシップ網がクリエイターエコノミー全体にどのような地殻変動をもたらすのか、その発展性に大きな期待を抱かざるを得ない。


