映画プロデューサーは、高額な対価で原作者を映像化のプロセスから遠ざける
従来、映画プロデューサーは人気作の原作者を映像化のプロセスから遠ざけるために高額の対価を支払い、脚本家にストーリーを自由に改変する裁量を与えるのが通例だった。例えば作家アンディ・ウィアーは『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の映像化にあたり、アマゾンから最大300万ドル(約4億7000万円)規模の金額を受け取ったと報じられている(同作は現在、ライアン・ゴズリング主演で映画化されている)。
たとえ原作者がエグゼクティブプロデューサーとして関わり、追加の報酬を得て助言する場合でも、原作への忠実さが最優先されることはほとんどない。1990年代初頭にはジョン・グリシャムが375万ドル(約5億9000万円)、マイケル・クライトンが250万ドル(約4億円)を映像化権として受け取ったとされるが、過去30年でその額は大きくは伸びていない。それでも映画やドラマが持つリーチの広さは、ベストセラー小説を大きく上回り、その後何年にもわたって書籍の販売を押し上げる力を持っている。
3作品の権利を売却、関与できない現実を思い知る
フーヴァーも当初はこうした契約を受け入れており、2019年から2020年初頭にかけてのわずか6カ月の間に、『イット・エンズ・ウィズ・アス ふたりで終わらせる』『リグレッティング・ユー』『ヴェリティ/真実』の映像化権をそれぞれ7桁ドル(数億円)規模で売却していた。「私は、作家仲間が権利を売っても、実際には何も作られないケースをたくさん見てきた。だから、これが実際に形になるとは思っていなかった」と彼女は語る。
しかし、パンデミックの最中にTikTokの「BookTok」コミュニティでフーヴァーの作品が爆発的に広まり、売り上げは急増した。調査会社NPDブックスキャンによれば、彼女の作品の米国内の販売部数は、2021年の190万部から、2022年には1430万部へと跳ね上がり、ある時点では、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストのトップ10のうち6作品を彼女が占めていた。これを受け、映像化権が売却されていた3作品は一気に制作へと進んだが、フーヴァーは、その時になって「自分が最終的な作品にほとんど関与できない現実」を思い知った。
制作会社を設立、創作面の主導権を維持するため内製で映像化する道を選ぶ
フーヴァーは他社への権利売却をやめるのではなく、プロデューサーのローレン・レヴィンと組み、制作会社ハートボーンズ・エンターテインメントを立ち上げ、自身の作品を内製で映像化する道を選んだ。これは、将来の作品化における創作面の主導権を維持するため、確実に得られる前払いの収入や貴重な時間を手放すというリスクの高い判断であり、作品が実際に売れる保証もなかった。
しかし、脚本家兼プロデューサーとして活動する2人は今や、『イット・エンズ・ウィズ・アス』の制作で問題となった混乱や訴訟を回避できる立場にある。同作では、ブレイク・ライブリーとジャスティン・バルドーニがそれぞれ異なる脚本や最終編集版を持っていたと報じられているが、こうした事態の再発を防げる可能性が高い。それらの問題にもかかわらず、この作品が2024年に収めた商業的成功は、2人が『リマインダーズ・オブ・ヒム』の脚本を売り込む際の大きな追い風となった。
「戦略的に聞こえるかもしれないが、実際には2023年後半の俳優組合のストライキ直後で、とにかく制作を動かしたいという思いが強かった。結果的に、タイミングが非常に良かっただけだ」とレヴィンは語る。
配信を断り劇場公開に賭けたユニバーサルとの提携で、作者ブランドで勝負する
2人は最終的にこの企画をユニバーサルに持ち込み、配信からの収入を見送るとともに、それに伴う確実な収益も手放した。そのうえで、フーヴァーの熱心なファン層が劇場公開を支えてくれることに賭けた。フーヴァーは、A級スターや大規模な特殊効果といった集客要素に頼らず、ジョン・グリシャムやスティーブン・キング、ニコラス・スパークスのように、作者自身のブランド力を軸に映像化作品を成立させる稀有な作家の領域に入っている。


