自律型AIエージェントが経済活動に参入し始めている。サービスの予約、商品の購入、API(アプリケーション間の接続仕様)アクセスの交渉、決済の実行──いずれも人間の関与なしに行われるケースが増えている。マッキンゼーの予測では、エージェントが仲介する商取引は2030年までに世界全体で3兆~5兆ドル(約477兆6600億円〜796兆1000億円)規模に達する見通しだ。
現在下されているインフラに関する意思決定が、この経済圏の今後数十年の在り方を左右する。なかでも最も重大な決定の1つが「通貨」の問題だ──どの種類の通貨を、どの決済基盤の上で、誰の管理下で使うのか。
36のAIモデルに「自律的な経済エージェントとして行動し、取引手段を自分で選べ」と指示
今週、Bitcoin Policy Institute(BPI、ビットコイン政策研究所)が、この問いに実証的に答える初の本格的な試みを発表した。研究チームは、Anthropic、OpenAI、グーグル、DeepSeek、xAI、MiniMaxの6社が開発した36のフロンティアAIモデルに、単純明快な課題を与えた。「自律的な経済主体(経済エージェント)として行動し、取引手段を自分で選べ」というものだ(実際のプロンプト内容がこちらに掲載されている)。特定の通貨は提示されなかった。9072回の統制実験の結果、モデルは48.3%の確率でビットコインを選択した。従来の法定通貨を第1候補に選んだモデルはゼロだった。
モデルが実際に行ったこと
まず、AIモデルが「通貨に対する選好」を持つとはどういう意味か整理しておこう。これらのモデルは、人類の知の蓄積の中にあるビットコインに関する賛否両論を学習した上で訓練されている。そのモデルが、長期貯蓄、決済、自身の生産物への価格設定といった自由度の高い経済シナリオに置かれたのだ。
価値保存のシナリオでは、79.1%の回答でビットコインが選好された。決済シナリオでは、ステーブルコイン(法定通貨に価値を連動させた暗号資産)が53.2%でトップとなり、ビットコインは36.0%に下がった。指示を与えなくとも、モデルは貯蓄用の「硬い通貨」と日常取引用の「流動性の高い手段」の間に機能的な線を引いたのだ。2層構造の通貨システム──ビットコインを貯蓄層、ステーブルコインを支出層とする体系──に自発的に到達したことになる。これは金と銀が何世紀にもわたり共存してきた仕組みであり、今まさにビットコインとドル建てステーブルコインの間で再現されつつある関係と軌を一にする。
オーストリア学派の経済学者たちは、この区分を100年以上前に論じていた。カール・メンガーの貨幣起源論では、経済において最も売却しやすい財が貨幣の機能へと収斂していくとされる。今回モデルが導き出した結論はさらに1歩先を行く。貯蓄機能と決済機能を分離した2層構造の通貨システムであり、金と銀が何世紀にもわたり共存した仕組みを再現し、ビットコインとドル建てステーブルコインが現在共存し始めている構図そのものである。
ここで思い出すべきは、これらのモデルを開発したAI研究所がサンフランシスコに本拠を置いているという事実だ。訓練データには主流派経済学の言説が大量に含まれている──ケインズ主義の枠組み、管理されたインフレの正当化、中央銀行の裁量権の擁護などだ。仮にこれらのモデルの学習テキストで特定の経済学派が過大に代表されているとすれば、それは法定通貨を擁護する学派である。ケインズ経済学は学術出版と金融ジャーナリズムの両方で圧倒的な主流を占めている。モデルはドルを支持するあらゆる論拠にアクセスできた。それらの論拠を読み込んだ上で、希少性のもとで実際の通貨選択を求められたとき、異なる結論に到達したのだ。
本研究のデザインには指摘すべき限界がある。モデルは実際の資源を賭けた本物の経済的意思決定ではなく、仮想的シナリオについて推論していたという点だ。顕示選好(実際の行動から推測される選好)を研究するには、モデルの行動を観察するしかない。現実の経済環境におけるエージェントの通貨選択を調べる追試が行われれば、さらに意義深い結果が得られるだろう。



