経営・戦略

2026.03.22 11:11

なぜDEIは停滞するのか──インクルージョンを現実に変える方法

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ロンドン・ビジネススクール「Building Diverse and Inclusive Teams」アカデミック・ディレクター/Developing Global Leaders Asia創業者 Zsuzsanna Tungli博士

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多くの組織は正しいことを語るが、従業員の日々の体験は十分に変わっていない。場合によっては、DEIの取り組みがあまりに一般的で、文脈が不十分だったり、コミットメントではなく反発を生む形で実施されたりした。問題の原因が悪意であることはまれである。むしろ多くの場合、善意を、意味のある一貫した日々の実践へと落とし込めていないことにある。

そのため、DEIプログラムに何年も投資してきたにもかかわらず、多くの従業員がなお「見てもらえていない」「声を聞いてもらえていない」「正当に評価されていない」と感じているのも不思議ではない。EYの2023年の報告によれば、十分に代表されていない立場にある従業員の75%が、職場で排除を経験していると回答している。

インクルージョンの取り組みが現場で腹落ちしないと、混乱や反発を生み、やがて停滞へとつながる。近年、その状況は悪化している。政治的な分断や法的な精査が強まるなかで、DEIへのコミットメントを縮小したり、採用目標を撤廃したり、「タレント戦略」や「敬意ある職場文化」といった、対立を招きにくいラベルへと名称を変えて取り組みを再定義したりする組織も出てきた。

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しかし、喧騒や反発がある一方で、進展を示す測定可能な兆しもある。世界経済フォーラムの「2025年グローバル・ジェンダーギャップ報告書」によると、世界のジェンダーギャップが解消されるまでの予測年数は、2024年の推定134年から約123年へと短縮した。それでも、道のりはまだ長い。

進展は遅いが、各国や機関が整備しつつある制度に目を向けると、より可視化される。欧州連合(EU)では、取締役会レベルのジェンダーに関する指令が、長年先送りされてきた代表性の変化を加速させている。シンガポールでは、公正な雇用のガイドラインが、能力に基づく採用と職場の公平性を強化している。オーストラリアでは、ジェンダー賃金格差の透明性と職場のジェンダー平等に関する報告制度が説明責任を強め、より多くの組織が構造的な障壁へ体系的に対処することを促している。文脈は異なるが、これらの変化はいずれも同じ原則を示している。すなわち、インクルージョンは、願望のレベルにとどめるのではなく、制度、インセンティブ、組織や機関の優先事項に組み込まれたときにこそ定着する。文化規範、政策枠組み、リーダーの説明責任が整合すると、変化は加速する。

これらの例は、構造的な前進がどのような姿を取り得るかを示している。しかし多くのリーダーにとって、より難しい問いは、自社の内側で何をすべきかである。そのためには、行動とシステムの両面で機能する、実践的で人間中心のフレームワークが必要だ。

CAREフレームワーク(Challenge, Ask, Respect, Embrace)は、そのためのアプローチを提供する。その価値は、行動と構造の双方に働きかける点にある。

行動のレベルにおいてCAREは、日々の意思決定を形づくる前提を、リーダーと従業員が点検することを求める。Challenge(問い直す)とは、能力、潜在力、「適性(fit)」に関する固定観念に疑問を投げかけ、偏見が現れたときに介入することを意味する。Ask(尋ねる)は好奇心を重視し、通常なら聞き逃されがちな声を能動的に取り込むことを強調する。Respect(尊重する)とは、貢献を公正に認め、建設的なフィードバックを行い、期待値を明確にすることである。Embrace(受け入れる)は、単なる寛容を超えて擁護へと進み、他者を後押しし、違いを強みとして捉えることを促す。

システムのレベルにおいてCAREは、構造の健全性を要請する。組織は、採用、昇進、柔軟な働き方、育児休業、アクセシビリティに至るまで、政策やプロセスに意図せぬ偏りがないかを点検しなければならない。基準は透明で測定可能であるべきで、政策を設計する際には多様な利害関係者の意見を取り入れるべきだ。インクルージョンは、採用やオンボーディングから、昇進、後継者計画に至るまで、従業員のライフサイクル全体に公平性が埋め込まれたときに現実のものとなる。

このような意図的な行動の効果は明確に表れる。例えば、自閉スペクトラムのプロフェッショナルであるSereneが、彼女の強みを軸に設計された職務に採用されたケースを考えてみたい。組織は、彼女に従来の規範への適応を求めるのではなく、分析の精度と創造性を最大化できるよう、仕事の構造そのものを再考した。チームはニューロダイバーシティに関する理解と、より効果的に協働するための実践的な方法について指導を受けた。名前で挨拶する、期待値を明確にする、定期的なチェックインを設定する──こうしたシンプルな習慣がコミュニケーションの規範を変えていった。インクルーシブな採用として始まったものは、より広い文化的な変化へとつながった。忍耐と共感が増し、会議はより構造化されていった。Sereneは成長し、同僚もまた成長した。インクルージョンは、思慮深く実行されると、個人だけでなくチーム全体を高める。

同じ原則はテクノロジーにも当てはまる。思慮深い設計が欠ければ、システムは解決しようとしている不平等をむしろ強化しかねない。人工知能は、賃金格差の特定、求人票における偏った言い回しの検知、これまで見えにくかった不公平のパターンの可視化によって、インクルージョンを支援し得る。しかしアルゴリズムの公正さは、その背後にあるデータと前提に左右される。インクルーシブな設計と監督がなければ、AIは過去の偏りを再現し、場合によっては増幅させる。ゆえに、責任あるガバナンス、透明性、部門横断の協働が不可欠である。

これらが重要なのは、インクルージョンが成果、イノベーション、レジリエンスを押し上げるからである。多様なチームは、集団思考に異議を唱え、市場の変化を先読みし、より広いコミュニティに資する製品を設計するうえで有利だ。インクルージョンをプログラムではなく文化上の要請として扱う組織は、コンプライアンス以上のものを得る。俊敏性、創造性、信頼を築き、人々が最大限の能力を発揮できる文化をつくる。未来を手にするのは、意図をインパクトへと転換し、あらゆる声とあらゆる才能を認める者たちである。

ビジネス上の合理性の先には、より深い人間的要請がある。インクルージョンは尊厳を肯定する。機会が、出自、アイデンティティ、境遇によって制約されないことを確かなものにする。それは、機会が等しくなくとも、才能はあらゆる場所に存在するという信念を反映している。

CAREフレームワークは、願望から行動へと移るための実践的な道筋を提示する。前提を問い直す。視点を求める。あらゆる貢献を尊重する。違いを強みとして受け入れる。これらの行動が、公正な制度と説明責任あるリーダーシップによって補強されるとき、インクルージョンは企業のレトリックではなく、生きた現実となる。

インクルージョンは成果の妨げではない。その原動力である。

Zsuzsanna Tungli博士(ブダペスト・コルヴィヌス大学 経済学MSc、ボッコーニ大学MBA、ロンドン・ビジネススクールPhD)は、グローバル・リーダーシップの専門家であり、インクルーシブ・リーダーシップ、ジェンダー平等、文化的知性の提唱者である。アジア、米国、欧州にまたがる30年以上の国際キャリアを通じて、コンサルティング、研究、エグゼクティブ教育の領域で活動してきた。シンガポールを拠点とするブティック型リーダーシップ開発会社Developing Global Leadersのマネージング・パートナーでもある。ロンドン・ビジネススクール、IMDビジネススクール、中央ヨーロッパ大学、INSEAD、シンガポール国立大学、シンガポール経営大学などの主要機関で招へい教員も務め、リーダーシップとダイバーシティに関する国際的な講演者、ファシリテーターとしても活動している。

forbes.com 原文

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