こうした意図的な社会基盤の破壊行為は、ロシアの「影の船団」に属するばら積み貨物船や原油タンカーによって行われている。こうした船舶の乗組員数人が拘束され、取り調べの後に起訴されたが、事件の背後にロシアが関与していたという決定的な証拠は見つかっていない。これらは「グレーゾーン」戦術と見なされている。つまり、実際の武力攻撃の基準を下回る範囲にとどめつつ、敵を弱体化させたり、威嚇したりするための破壊工作だ。
これらの事件の本質について、専門家の間では意見が分かれている。主な論点は、ロシアのグレーゾーン作戦が通常戦争の代替手段なのか、あるいはその準備段階なのかという点にある。通常戦争の代替手段と見なす専門家は、ロシアがNATOとの直接対決に踏み切る余裕がないか、もしくは太刀打ちできないため、ハイブリッド戦略を選択したと考えている。一方、これを準備段階と見なす専門家は、ロシアが将来的に通常戦力による軍事行動に踏み切る前に、もっともらしい否定の余地を残しつつ、戦場の再構築を図っていると考えている。具体的には、探知システムの試験や弱点の把握のほか、欧州連合(EU)内の政治的結束を弱めようとしていることなどが挙げられる。
ウクライナ軍がドルジバ石油パイプラインを攻撃したことで、戦争が欧州にも及んでいることは頭に入れておくべきだろう。ウクライナ軍は、ハンガリーとスロバキアにロシア産原油を輸送するパイプラインの南部支線を標的とした。この選択には二重の目的がある。すなわち、ロシアの石油輸出を妨害すること、もう1つは、ロシア寄りのEU加盟国であるハンガリーによるロシア産原油の輸入を阻止することだ。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は、ウクライナのEU加盟を阻止すると公約している。
エネルギーテロがウクライナに与える影響
米国による対ウクライナ支援の削減と、ロシアによるNATOに対するグレーゾーン攻撃が相まって、欧州の主要国は、ウクライナの軍事力や人道支援、エネルギー供給能力を強化する形で支援を拡大する決意を固めた。さらに、EUは来年までにロシア産の石油と天然ガスの輸入を完全に停止する計画を立てている。
こうした動きが及ぼす影響は決して小さくない。他方で、ウクライナのエネルギーシステムが受けた被害の深刻さを過小評価してはならない。ウクライナの利用可能な発電容量は、侵攻前の合計約38ギガワットから、現在は14ギガワットにまで減少している。キーウのような大都市では、携帯式発電機を所有または共有していない限り、1日3~4時間しか電気が供給されない。暖房や水の供給も不足しているため、この冬に約60万人が首都を離れた。
ロシアの目的は、ウクライナのエネルギーシステムに深刻な打撃を与えるだけでなく、完全に崩壊させることにある。一般市民から電気や暖房、水などを奪うことは、尊厳を傷つける行為であると同時に、最も弱い立場にある人々を死に追いやることになる。太陽光や風力による分散型電力システムは有益であるとはいえ、国全体に対する予防的な解決策とはなり得ず、あくまで一時的な措置に過ぎず、特定の地域で最低限の電力供給を維持する程度にとどまる。
一方のロシアも深刻な課題に直面している。昨年後半、同国の石油精製施設では120件以上の攻撃が発生し、高付加価値燃料から原油の輸出へと転換を余儀なくされた。精製能力の大部分が復旧するまでには4~6カ月を要するだろうが、ウクライナ軍がこうした攻撃を激化していくことは間違いないだろう。


