「宇宙の支配者(Masters of the Universe)」──米国の作家トム・ウルフが1987年の小説『虚栄の篝火』で生み出した言葉だ。巨大な富と権力を握り、自らを世界の支配者と信じて疑わない金融エリートたちを皮肉った慣用句として、現在もウォール街で使われる機会がある。
その「支配者」たちに、今、異変が起きている。
プライベートエクイティ(PE)やプライベートクレジット──非上場企業や資産に投資するファンドを率いる超富裕層ファンドマネージャーたちだ。リーマンショック後の超低金利時代、銀行が手を引いた領域に資金を流し込み、莫大な報酬を手にしてきた。主要ファームの創業者たちはS&P 500を大きく上回るペースで個人資産を増やし、「神話」を築いてきた。
だが今、金利上昇と生成AIの台頭がその根幹を揺るがしている。米国の主要PE・オルタナティブ資産運用会社の創業者・経営者19人が、過去6カ月で失った富は合計約5.9兆円に上る──ただそれでも彼らは、桁違いに豊かなままだ。
プライベートエクイティの大物19人が、過去6カ月で合計約5.9兆円の富を失っている
ドレクセル・バーナム・ランベール(Drexel Burnham Lambert)とアポロ・マネジメント(Apollo Management)の出身で、プライベートクレジット大手アレス・マネジメント(Ares Management)の共同創業者であるアントニー・レスラー(64)は、ウォール街でも屈指の息の長い稼ぎ頭の1つを築くのに数十年を費やしてきた。
レスラーは、銀行を介さない直接融資の初期からの積極的な推進役であり、従来の銀行が手薄だった中堅企業向けの融資を広げることで、自社を運用資産6000億ドル(約95.4兆円。1ドル=159円換算)規模の巨大企業へ育てる一翼を担った。資産の急拡大──それに伴う安定した手数料収入と配当収入──は、レスラーを2015年に米誌フォーブスの米国富豪400人リストに押し上げ、NBAのアトランタ・ホークスを含む資産ポートフォリオの拡大も可能にした。
アレスとブルーアウルの創業者たちが、それぞれ数千億円規模の損失を抱える
ダグ・オストロバーとマーク・リップシュルツも同じ波に乗った。ブルーアウル(Blue Owl)の共同創業者である2人は、2021年にオウル・ロック(Owl Rock)とダイアル・キャピタル(Dyal Capital)の統合で生まれた会社で、大規模なプライベートクレジット事業と、他のバイアウト会社の持ち分を買うセカンダリー事業の拡大を組み合わせ、オルタナティブ資産業界でも最も成長の速い企業の1つを築いた。その結果、運用資産3000億ドル(約47.7兆円)超の会社が生まれ、急成長によって経営幹部には数十億ドル(数千億円)規模の財産がもたらされ、彼らは高級不動産やスポーツチームのシェアを買った。
だが、最近レスラーとブルーアウルの面々は、これまでなじみのなかった立場に置かれている。資産を増やすのではなく、減らしているのである。レスラーの純資産は、アレス株が40%下落したことで、9月から3月にかけて33億ドル(約5247億円)減った。オストロバーとリップシュルツも、ブルーアウル株が半値超下落したことで、2人合わせて約10億ドル(約1590億円)を失った。
アポロやブラックストーンの株価も、S&P 500を大幅に上回る下落
彼らだけではない。米国を本拠とする上場オルタナティブ資産運用会社の創業者、または経営を担う富豪19人は、全員がこの6カ月で資産を減らした。フォーブスの年次「世界長者番付」(先週公表)と「Forbes 400」(9月公表)のデータによると、この小さな集団が失った資産は合計で370億ドル(約5.9兆円)を超える。
PE(プライベートエクイティ)業界の大物の中でも、最も裕福な面々すら無傷ではなかった。最大手プライベートエクイティ会社のアポロ、ブラックストーン、KKRの株価は年初来で約25%下落しており、S&P500の3%下落を大きく上回る下げとなっている。過去12カ月で唯一株価が上昇していたカーライルも、今年に入って20%下落している。



