サイエンス

2026.03.21 11:59

沿岸の光害がサメの体内リズムを乱す可能性、初の野外研究で明らかに

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夜間の人工光(Artificial Light at Night:ALAN)は、沿岸部の都市化が生み出す副産物のなかでも、最も広範に広がっているものの1つである。街灯や高層ビル、ウォーターフロント開発が夜空を光で満たし、その光害は都市の境界をはるかに超えて広がる。陸上では、この光が鳥類、昆虫、哺乳類をかく乱し、睡眠や繁殖、さらには免疫機能にまで影響することが知られている。では、サメはどうか。頂点捕食者であるサメは、人間活動によってますます照らされる沿岸域を回遊しているが、つい最近まで、ALANがその生理にどう影響するのか科学者には分かっていなかった。

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フロリダ州マイアミ沖で行われた最近の野外研究は、この疑問に答えるため、移動性の異なる2種のサメについて夜間の血中メラトニン濃度を測定した。主に定住的な生活を送り、行動圏への忠実性(科学的には「サイト・フィデリティ(site fidelity)」)で知られる若いナースシャーク(Ginglymostoma cirratum)と、より広い範囲や水深を移動する移動性の高いブラックチップシャーク(Carcharhinus limbatus)を比較したのだ。研究チームを率いたローゼンスティール海洋・大気・地球科学スクールの研究者アビゲイル・M・ティナリの仮説は明快だった。夜間の人工光に多くさらされるサメほどメラトニン濃度は低くなり、その影響は移動性の低いナースシャークでより顕著になる、というものである。メラトニンは概日リズムを調節するホルモンであり、要するに、生物に「いつ眠るか、食べるか、繁殖するか、移動するか」を知らせる。サメでは、光は目だけでなく松果体の光受容体でも検知され、そこからの信号がメラトニン産生を調節する。わずかな光でも松果体は反応し得るため、遠くの都市の光害であっても、近隣に生息する動物の自然な夜間リズムを乱すことは十分にあり得る。サメにとっての正確な健康影響はまだ不明だが、ほかの魚類では、メラトニンの抑制が遊泳行動、繁殖周期、代謝免疫機能に影響し得ることが示されている。

結果はチームの予測を裏づけた。都市化が進み光の強い地域にいるナースシャークは、近隣の光の弱い地域にいる個体より、メラトニン濃度が有意に低かった。一方、ブラックチップシャークでは同様の傾向は見られず、ALANが野生のサメでもメラトニンを抑制し得るものの、その影響は種の移動パターンに依存することが示唆された。ナースシャークのような定住的な種では光害への頻繁な曝露は避けにくいのに対し、ブラックチップのような移動性の高い種は暗い場所と明るい場所の間を移動でき、その分だけ影響を緩衝できる可能性がある。興味深いことに、水深も重要だった。やや深い水域で採取されたナースシャークほどメラトニン濃度が高かった(光の強度が水深とともに低下するためと考えられる)。ナースシャークは底生性の種であるため、水柱内での位置が都市光から部分的に身を守る可能性はあるが、完全ではない。ブラックチップシャークでは、メラトニンと水深の明確な関係は見られなかった。性別、体サイズ、水温、さらには採血時の取り扱い時間といった他の変数も検証されたが、いずれもメラトニンのパターンを有意に説明しなかった。このことは、少なくともナースシャークに関して、影響の主因がALANそのものであるという見立てを強める。ただし、食性、ストレスホルモン、季節変動といった要因も関与し得る。例えば栄養状態の違いは、メラトニン合成に必要なアミノ酸であるトリプトファンの利用可能性を変え得るため、可能性のある理由として示唆された。都市域は光への曝露と餌の質の双方に影響し得ることから、沿岸開発の影響は多面的であることがうかがえる。

都市の足跡は拡大し、それに伴って沿岸の光害も増大している。光害は景観や陸上の問題として捉えられがちで、例えばウミガメが上陸する際に見られる影響が知られているが、海洋保全の問題でもある。より広い含意は大きい。沿岸部で都市を拡張し続ける以上、サメのような頂点捕食者に人為的な光がどう影響するかを理解することは不可欠だ。サメは海洋の食物網の上位に位置し、被食者の分布や個体数に影響を与える。ALANがサメの生理や行動を変えるなら、沿岸の生態系全体を間接的に作り替える可能性がある。メラトニン産生の変化は、狩りのパターン、回遊のタイミング、集群行動の変化につながるのか。もしそうなら、海草藻場、魚類資源、そしてそれらに依存するより大きな海洋群集の健全性に何を意味するのか。

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この研究は、いかなるサメ種についても血中メラトニンを測定した初の例であり、今後の研究に不可欠となる基準値を確立した。若いナースシャークは24〜425 pg/mL、ブラックチップは27〜628 pg/mLの範囲で、硬骨魚類(条鰭類)で報告されている値とも重なっていた。これらの測定値は、ALANへの長期曝露がサメの成長、行動、繁殖、生存にどう影響するかを探る実験研究の出発点となる。「大都会のまばゆい灯り(Bright lights in the big city)」は、マイアミのナースシャークにとって、耳当たりのよい歌詞以上のものだ……生物学的に破壊的なのである。研究者らは次のステップが明確だと述べている。光害がサメとその生態系にもたらす連鎖的影響を明らかにするには、長期モニタリングと実験研究が必要だ。では、その間に都市計画は海洋環境に「暗いゾーン」を組み込めるだろうか。人間の開発と海の生命のリズムの均衡を図るには、政策立案者と科学者が協働することが求められる。おそらく私たちは力を合わせ、夜を自然へ返す道を見いだすことになる。

(Forbes.com 原文)

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