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2026.03.20 11:47

不確実性の時代、スタートアップが選ぶ「グローバル分散チーム」という戦略

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起業には昔から、不確実性と向き合う覚悟が求められてきた。だがこの1年で、不確実性は単なる「背景のノイズ」ではなく、事業の前提となる環境そのものになった。昨年4月、トランプ大統領は米国の輸入品に対し最低10%の関税を課すと発表した。直後、港では混乱と無秩序が広がり、海外から直接調達していない企業にも影響が及んだ。インフレは上昇し始め、とりわけ食料品価格が押し上げられた。いま米国はイランと戦争状態にあり、石油価格は早くもパンデミック以降で最高水準へ急騰している。とりわけ実物商品を扱う創業者にとって、不確実性を乗り切るための従来の「定石」は、いまこの瞬間にも崩れつつある。

それでも、多くのスタートアップは後退していない。適応しているのだ。

皮肉なことに、政治の言説が事業活動を国内回帰させる方向に傾く局面で、多くの創業者は、世界的な変動を乗り切る最も賢い方法は「チームをグローバルに組むこと」だと見いだしている。分散した人材とAIツールを組み合わせ、スピードを上げ、無駄を削ぎ、時差をまたいでより良い意思決定を行っている。

グローバルなサプライチェーンを持つスーパーフード企業Kuli Kuliの創業者として、はっきり言えることがある。2025年に2桁成長と継続的な黒字を達成できたのは、チームを組み替えたからである。昨年、私たちは米国中心の運営から、6カ国にメンバーを擁する体制へ移行した。この変化はコスト削減にとどまらない。スピードを高め、レジリエンスを強化し、変化への対応力を高めた。

他の創業者も同じことを感じているのか知りたかった。数十人の起業家と話したところ、共通のパターンが見えてきた。不確実性を最もうまく乗り切っているスタートアップは、グローバルに分散し、AIを活用するチームを構築している。そこから3つの重要な教訓が浮かび上がった。

1. 複数のタイムゾーンにまたがるグローバルチームが不確実性を乗り切る鍵である理由

多くの創業者は、すでに出遅れた状態で1日を始める。私はそうではない。

私のエグゼクティブアシスタントはドイツを拠点にしており、西海岸より9時間先の時間で動いている。私が眠っている間に、彼女は資料を整え、優先順位を整理し、事務作業のボトルネックを取り除いてくれる。オークランドで私が仕事を始める頃には、リーダーシップに集中するための土台がすでに整っており、ロジスティクスに追われずに済む。

同じ利点はオペレーションにも及ぶ。ホンジュラスとグアテマラのチームは、サプライチェーン物流の複雑な日々の課題を早い時間帯から扱い、カリフォルニアのチームがログインする前に多くの問題を解決している。米国の勤務時間と重なりつつも先に動けるため、両方の利点を得られる。リアルタイムの協働と、より速い実行である。

その後も仕事は止まらない。フィリピンのデザインチームとスペインのソーシャルメディア担当が、米国オフィスがオフラインの間もプロジェクトを前に進める。消費者市場ではトレンドが数日で生まれ、ピークを迎えることもある。ほぼ24時間体制で反復できる能力は、役に立つだけではない。戦略的優位性である。

AIはこのモデルをさらに強力にする。もはやマーケターに完璧な英語力は必要ない。優秀なソフトウェアエンジニアにコンピュータサイエンスのバックグラウンドも不要だ。

MAS Global Consultingの創業者兼CEO、モニカ・エルナンデスは、米国と中南米にまたがる分散チームが「リアルタイムの協働を可能にし、デジタルおよびAIエンジニアリングの高パフォーマンスチームを50〜70%速く編成できる。結果としてグローバルクライアント向けのイノベーションを加速させる」と語った。AI変革の時代における最大の制約は、しばしばアイデアではなく、適切な専門性を迅速に動員する力だという。

FlipWork創業者のニッキ・バルアも同様の力学を見ている。AIは「かつて私たちのスピードを落としていた調整コストを取り除いている」と彼女は言う。その結果、反復は速くなり、引き継ぎは滑らかになり、同じ場所に集まったチームでも追いつけないほどの実行スピードが生まれる。

長年、創業者は時差をマネジメント上の厄介事として扱ってきた。いま最も効果的なスタートアップは、それを成長エンジンとして扱っている。

2. 国境を越えて強いカルチャーをどう築くのか?

グローバルチームを作り始めた当初、私の最大の不安はオペレーションではなかった。カルチャーだった。

同じオフィスを共有しているときのほうが築きやすいと感じられる信頼、温かさ、つながりを保てるのか。国や文化をまたいで広がるチームが、それでも「1つのチーム」だと感じられるのか。

答えはイエスだ。ただし意図が必要である。

強い分散カルチャーは、近さから生まれるものではない。儀式(リチュアル)によって築かれる。話を聞いた創業者たちは、この点で驚くほど一致していた。最も成功しているグローバルチームは、カルチャーが自然発生することを期待するのではなく、定期的で繰り返し可能な「つながりの瞬間」を作り出している。

それは、毎日15分のスクラム、定例の全体会議、仕事の成果だけでなく私生活の近況も共有するための構造化された時間、といった形をとり得る。

エルナンデスによれば、MAS Globalでは会議の冒頭で、各自に「最高の個人的ニュース」と「最高のビジネスニュース」を共有してもらうことが多いという。このシンプルな儀式は、多くのリーダーが見落としがちな真実を補強する。人は役職としてではなく、人間として知られているときのほうが、より良く協働できる。

Guidewheelのローレン・ダンフォードはこう語る。「週末の写真を月曜に共有するような小さく一貫した儀式や、楽しいストーリーを共有する『Customer-love』チャンネルのようなものが、時差を越えて私たちを結びつけ、どんなオフィス環境よりも近い存在にしてくれた」

グローバルチームは、多くの企業が十分に活用していない機会も生み出す。多様性は採用の統計ではない。視点、創造性、レジリエンスの源泉である。FlipWorkのバルアは「分散したグローバルチームは、世界水準の人材と多様な視点を解き放つ」と述べた。

優れたリーダーは文化差を平板化しない。それを称える。

Kuli Kuliでは、チームが拠点を置く国々の祝日を認識し、メンバーにその祝い方を共有してもらうことも多い。こうした時間は、単に好意を醸成する以上の意味を持つ。共感を広げ、会社全体のつながりを深める。

最後に、リモートワークによって常時の物理的な同席は不要になったとはいえ、対面の時間はいまも重要である。年1回または年2回のリトリートが、分散チームの結束を強めるうえで非常に大きな役割を果たすと多くの創業者が語った。数日間を共に過ごせば、オンラインで何カ月も続く信頼が生まれる。全体リトリートには投資が必要な場合もあるが、見返りがないと言う創業者を私はまだ聞いたことがない。

分散チームのカルチャーは、放っておけば弱くなるというものではない。だが、設計する必要がある。

3. 信頼がスタートアップリーダーにとって最重要スキルになりつつある理由

パンデミックは、従業員の仕事観を変えた。同時に、リーダーがマネジメントをどう捉えるべきかも変えた。

Covid-19以前、多くの雇用主は生産性を「出社していること」と同一視していた。誰かがオフィスのデスクに座っていなければ、そのコミットメントは疑わしいと見なされた。リモートワークはこの前提を崩した。リーダーは、目に見える活動よりも成果に基づいてパフォーマンスを評価せざるを得なくなった。

グローバルチームの構築は、その意識転換をさらに先へ進めることを求める。

チームが複数の国にまたがるなら、近さ、常時の監視、オフィス内の非公式なシグナルに頼って、事業が前に進んでいるかを判断することはできない。そうすべきでもない。多くの場合、あなたが眠っている間にチームは重要な仕事をしている。マイクロマネジメントは、非効率であるどころか、不可能になる。

だからこそ、明確さが極めて重要になる。分散チームは、リーダーが成果を明確に定義し、優先事項を適切に伝え、仕組みに信頼を組み込むときに最も力を発揮する。

Rip Van Waflesのリップ・プルイスケンは、事業の初期には共同創業者とともに実行に深く入り込んでいたと語る。いまグローバルチームを構築したことで、「そのレベルの統制を保ち続けたいという衝動に抗わなければならなかった。会社が成長するにつれ、分権化には実行から一歩退き、強いリーダーが各領域を担うことを信じる必要がある」と述べた。

エルナンデスは要点をこうまとめた。「近さが生産性に等しいという考えを、手放さなければならなかった。最も重要なのは成果の明確さ、信頼、そして強いリーダーシップであり、それが分散チームの効果的な協働を可能にし、しばしばより速いイノベーションにつながる」

この洞察はリモートワークをはるかに超えて当てはまる。現代のリーダーシップに関する、より深い真実を突いている。勝つ創業者とは、時代遅れのマネジメント本能をいち早く手放せる者であることが多い。

世界的な不確実性は、スタートアップの事業運営の未来に何を意味するのか?

起業家にとって、いまは苛烈な瞬間である。事業を左右する力のうち、あなたのコントロールの外にあるものが多すぎる。貿易政策、インフレ、紛争、消費者心理、資本市場。創業者は、その変動を消し去ることはできない。

だが、それに耐えうるよう設計された会社を作ることはできる。

多くのスタートアップにとって、それは世界の見方を変えることを意味する。グローバル人材は、もはや「あれば望ましい」ものではない。いまのビジネスにおいて最も明確で、しかも十分に活用されていない優位性の1つである。AIと組み合わせれば、分散チームはスタートアップのスピードを上げ、無駄を削ぎ、初日から事業にレジリエンスを組み込む助けになる。

この時代に躍進する創業者は、仕事がどこで最もうまく行われるかという古い前提にしがみつく者ではない。不確実性に規定される世界では、近さよりも俊敏さと明確さが勝ることを理解する者である。

forbes.com 原文

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