企業などの組織では、AI(人工知能)の導入に関して新たなギャップが生じつつある。
AIはすでに、企業で実際に許可されているレベルをはるかに超えるタスクを、実行する能力を備えている。
大手AI企業Anthropic(アンソロピック)が実施した最新の労働市場調査で、大規模言語モデル(LLM)が理論的に実行可能なことと、組織内における実際の活用法のあいだに、驚くほどの断絶があることが示された。この調査では、AIの導入において、このテクノロジーでできることと、企業がその能力をどう活用しているかのあいだに明白なギャップがあることが明らかになった。
これが意味することは重大だ。AI革命のスピードは、AI技術がどれだけ速く進歩するかではなく、組織がどれだけ速く業務プロセスを再設計するかで決まるということだ。
職場でのAI導入が遅れている理由
アンソロピックの調査では、「観測された暴露(observed exposure)」という、2つの指標を組み合わせた概念が採用されている。一つは「AIが理論的に実行可能なタスク」、もう一つは「働く人が職場で実際にAIを使って完了しているタスク」だ。
この2つの指標を比較すると、そこには大きなギャップがある。
コンピューターや数学に関連した職業の場合、大規模言語モデルは、理論的にはタスクの大部分を補助できる。にもかかわらず、実際に使用されている範囲は今のところ、3分の1ほどにすぎない。
こうした傾向は、多くの職業でも見られる。AI技術は急速に進化したが、組織内でのAI導入はそれほど進んでいない。導入の足かせとなっているのは、技術的な問題ではなく構造的な問題だ。
組織での仕事は今もまだ、固定された役割や責任の範囲、細々と設定されたプロセスを中心に構成されている。しかし、分析を行なったり、解決策の草案を作成したり、最初から最後までの一連のタスクチェーンを自動化したりするシステムは、これまで定められていたそれらの境界線をまたいでしまう。そのため、業務の仕組みを再設計しない限り、AIテクノロジーを組み入れることが難しいのだ。
AIは仕事を再設計せず、拡張している
こうしたギャップがなかなか解消されない理由は、アンソロピックの調査で判明した別の詳細を見ればわかる。
AIは現在、業務を完全に自動化するより、拡張するために使われているケースがほとんどだ。研究者たちは、実際のAI導入状況を測定する際に、「タスクを完全に実行するシステム」と、「人間がタスクをより迅速に実行できるよう手助けするだけのシステム」を区別している。
タスクをこのように区別することで、組織によるAI技術導入の実態が見えてくる。AIは、報告書の下書きや情報の分析、文書の要約、アイデアの生成などで労働者を補助している。その一方で、組織における承認や引き継ぎ、説明責任の仕組みなどは、以前とまったく変わっていない。
AIの助けを得て、従業員は従来の業務をより生産的にこなせるようになっているが、ワークフローは今もまだ、AIが登場する前から存在していたシステムや、決裁の過程、意思決定の階層を通って進んでいく。そうした業務の流れが変わらない限り、組織はAIの可能性を完全に生かすことはできないだろう。
そうなると当然、こんな疑問が湧いてくる。「多くの業務をこなす能力をAIがすでに備えているなら、組織はなぜ、それをもっと広範囲に活用しないのか」という疑問だ。



