アンソロピックの調査結果は、いくつかの実際的な理由を挙げている。多くのタスクが今もまだ、人間による確認が必要であることや、AIツールは既存システムへの統合が容易でないことなどだ。また、大きな組織では、一つ一つのタスクが、承認やポリシー、相互依存関係など、変化の足を引っ張る複雑なワークフローに組み込まれていることも理由の一つだという。
こうした理由は、技術的な制約ではない。組織内における業務の仕組みが反映されたものだ。組織はこれまで、リスクを管理したりチームを連携させたりする目的で、何層にも及ぶ承認制やシステム、ポリシー、調整の仕組みを、時間をかけて構築してきたのだ。
AIは、こうした構造に自動的に収まることはできない。
AIがタスクを自動化したり拡張したりできるようになるには、多くの場合、まずは周辺のワークフローを変えなくてはならない。責任の所在を再定義したり、決定権を移行させたりする必要がある。組織の構造も進化する必要があるし、マネージャーが、新たな形のアウトプットに信頼を置けるようになる必要もある。
多くの組織では、AI導入に向けたこうした作業はまだ始まったばかりだ。
AI導入における真のチャンス
とはいえ従業員は、組織がトップダウンで業務を再設計してくれるのを、ただ待っているわけではない。多くの企業では、こうした動きがボトムアップで起きている。
筆者が司会を務めるポッドキャスト番組「The Future Of Less Work」では2026年2月、会話型AIプラットフォーム企業Moveworks(ムーブワークス)の共同創業者兼CEO、バーヴィン・シャーが出演し、同社が支援する世界的なIT企業各社で目にする状況を説明してくれた。同氏によれば、「AIに関する取り組みやイノベーションは、実のところ現場から始まっていると答えた人は91%」とのことだ。
先頭に立って業務プロセスを再構築しているのはたいてい、財務チームや法務部門、調達の専門家など、現場に最も近い人であり、場合によっては、上層部の許可を待たずに進めることも少なくないという。シャーはこうした動きを「シャドー・イノベーション(shadow innovation)」と呼んでいる。この用語は、かつての「シャドーIT」(会社のIT部門が把握していないIT機器やサービスなどを従業員が独自の判断で使用すること)を、意図的に言い換えた名称だ。
シャドーITでは、テクノロジーのガバナンスを従業員たちがすり抜けていたが、現代の従業員は、自分のワークフロー内でAIの新たな活用法を独自に模索しているのだ。このバランスをうまく管理し、「阻止しないガバナンス」を心がける企業は、新しい技術の導入をいちいちトップダウンで監督しようとする企業と比べて、速やかに前進するだろう。
アンソロピックの調査は、AI変革の「次なる段階」について重要なポイントを示唆している。AI技術はすでに到来しており、あとは企業がそれに追いつくしかない、ということだ。
企業は、AI導入のギャップを埋めるために、役割や業務プロセス、意思決定の流れを見直し、業務工程の最初から最後までにおいて、インテリジェントなシステムが機能できるようにする必要がある。


