人工知能(AI)をスケールさせることはこれまで、概ねより大きなモデルを構築することを意味してきた。より多いパラメータ、より多い計算資源、より良いベンチマークである。こうしたモデル上に構築されたAIエージェントは、独立してタスクを実行できる、ますます有能な専門家になりつつある。だが、マルチエージェントシステムで協働しようとすると、人間のチームができるようには「共に考える」ことができない。
同じモデルで構築されたエージェントでさえ、サイロ化して動く。異なるベンダーの異なるモデルを、異なるフレームワークで混在させれば、分断はさらに深まる。
「エージェントは基本的なレベルでは接続してコミュニケーションできる」と、Cisco Outshiftでゼネラルマネージャー兼シニアバイスプレジデントを務めるVijoy Pandeyは言う。だが「集合知の力を活用するには、これらのエージェントが意味(セマンティック)にもとづいて協働できるインフラを構築する必要がある」。
知能をスケールさせる2つのアプローチ
Pandeyは人類の進化との類似性を指摘する。数十万年にわたり、人間はより良い道具、原始的な象徴的コミュニケーション、基本的な計画によって、個々としてはより賢くなっていった。しかし、イノベーションは各発明者の内側に閉じたサイロであり、本人とともに消えていった。ところが約7万年前、文と文法の発達を含む言語のいくつかのブレークスルーが起きた。これにより、人間は意図を共有し、世代を超えて累積的な知識を築き、集団として推論できるようになった。
AIは、シリコン上でこの軌跡をなぞっている。過去10年は、個々のモデルをより強力にすること、いわゆる垂直スケーリングに焦点が当てられてきた。だが初期の人類と同様に、知識とイノベーションは断片化している。
次の機会は、水平スケーリング、すなわちエージェント同士を協働させることを探ることにある。「Internet of Agents(エージェントのインターネット)」はその初期の試みであり、異なるベンダーのエージェントが相互運用可能なネットワークとして連携し、異なるクラウド上で稼働し、異なるチームが所有しながらも、互いを発見・特定し、メッセージを交換し、ツールを呼び出せるようにするアーキテクチャだ。これを支えるのが、エージェントをツールに接続するModel Context Protocol(MCP)、エージェント同士の通信を可能にするAgent2Agent(A2A)、そしてエージェントの発見、アイデンティティ、メッセージング、可観測性(Observability)を担うAGNTCYプロジェクトのようなプロトコルである。しかし、この基本的な通信と調整のレベルは、初期の人類における象徴的シグナルに似ている。必要な基盤ではあるが、まだ集合知ではない。
接続性が協働ではない理由
データ損失を伴う深刻なブラックスワン型(予測不能な大規模障害)のソフトウェア障害を想像してほしい。ユーザーは怒り、コンプライアンス、ブランド、財務諸表にまで実質的な影響が及ぶ。マルチエージェントシステムが動き出す。SRE(Site Reliability Engineering)エージェントは稼働率を回復させるためにロールバックを実施する。コーディングエージェントはホットフィックスを主張する。ネットワークはトラフィックを緩和する。セキュリティはポリシー上のリスクを警告する。各エージェントは、自分の領域の中では合理的に行動している。
だが間もなく、提案が衝突する。真の影響範囲(blast radius)や、必要となるトレードオフの全体像を理解しているエージェントは1つもいない。エージェントが優先事項を説明し直し、再説明し、正当化するにつれて、調整コストが増大する。拙速な修正で最終的にはサービスは復旧するが、その代償として技術的負債、コンプライアンス上のエクスポージャー、長期的なレジリエンスが損なわれる。そして次の危機が起きると、システムはゼロからやり直しになる。
意図とコンテキストを共有できなければ、エージェントは意味(セマンティック)的に孤立したままだ。目標は乖離し、サイクルは浪費され、知識は蓄積されない。「彼らは皆、協働し、集合的な知識を持ち寄り、共通の目標に合意する必要がある」とPandeyは言う。
「今日、エージェントは共に考えることができない。それこそがInternet of Cognition(認知のインターネット)が可能にするパラダイムシフトだ」。これは、エージェントが単にデータを受け渡すのではなく、共有理解を築き、時間とともに知識を蓄積し、単独のエージェントでは対処できない問題を解くための、アーキテクチャ上のアプローチである。
Pandeyにとって、これは選択肢ではなく必然だ。「今後、マルチエージェントシステムは、あらゆる企業がビジネス成果を達成するうえで主要なアーキテクチャになっていく」。
認知の未来を築くために必要なもの
AIエージェントが接続性から共有認知へ移行するには何が必要か。Pandeyの答えは分散アーキテクチャにある。「マルチエージェントシステムだけでは認知は立ち上がらない。エージェント同士が有意味にコミュニケーションし、共有認知を構築できるようにする、新しい一連のインフラコンポーネントが必要だ。単に不透明なデータを送るだけでは不十分である」。
これが、PandeyとOutshiftのチームが構築しているインフラである。プロトコル、システムをまたぐ共有メモリとコンテキスト、そして各インタラクションでリセットされるのではなく蓄積していく永続的なナレッジレイヤーだ。
AIの未来には、2つのアプローチの両方が必要となる。より有能な個々のモデルと、集合知を可能にするインフラである。本シリーズの次回記事では、分散知能を現実にするためのプロトコル、ファブリック、エンジンを含め、そのアーキテクチャの具体像を探る。



