数十年にわたり、旅行計画の儀式はお決まりの順序に従っていた。まず航空券を予約し、次にホテルを確保し、到着してから何をするかを決める、という流れである。
その順序が、静かに——しかし決定的に——変わりつつある。
旅行体験分野に注力する調査・イベント企業ArivalのCEO兼共同創業者、ダグラス・クインビーは、ツアーやアクティビティ、アトラクションの進化を約20年にわたり研究してきた。最近の対談で彼が語ったのは、多くの旅行企業がなお過小評価している構造的変化だ。特に若年層の旅行者にとって、体験はもはや「付け足し」ではない。旅の軸になりつつある。
「シンプルに言えば、以前は『この場所に行きたい——それで、そこで何をしようか?』だった」とクインビーは語った。「いまは『これをやりたい——それをするのに最適な場所はどこか?』へと移っている」
この順序の変化は重要である。それは旅のつくり方の論理が、より深いところで変わっていることを示す。旅行者が何をしたいかが、行き先——そして予約のしかた——を決めるようになっている。
旅行ブランドにとって、これは需要予測からロイヤルティ戦略まで、あらゆるものを組み替えうる。
計画の「前倒し」が進む
クインビーは、この変化を体験経済の拡大という大きな潮流の一部として位置づける。多くの物質的ニーズが満たされている成熟した消費市場では、支出は意味、アイデンティティ、変容へと移っていく。
「私たちは明らかにサービス志向の経済にいる」と彼は言う。「薄型テレビ市場は飽和している。消費者はマズローの階層を上がっている」
旅行は当然、そのピラミッドの上位に位置する。だが変わっているのは、旅そのものを形づくるうえで、体験が果たす役割である。
パリは依然としてパリであり、エッフェル塔は今も人々を引きつける。だが今日の旅行者は、名所をリストから消していくことよりも、情熱——アート、食、サーフィン、音楽、ハイキング、文化——に基づいて目的地を選ぶ傾向が強まっている。
目的地は、旅行者のアイデンティティを演じる舞台になる。
同じくらい重要なのが、誰かが購入ボタンをクリックする前に起きていることだ。
歴史的に、ツアーやアクティビティは直前予約が中心で、旅行者が到着してから手配されることも多かった。クインビーは初期の調査として、体験の約80〜90%が現地で、旅行日程に近いタイミングで予約されていたことを挙げる。
だがこの力学は、特にミレニアル世代とZ世代の間で急速に変わりつつある。
「若い旅行者は、フライトやホテルといった要素より前に、体験の計画を立てている」とクインビーは言う。「必ずしもすぐ予約するとは限らないが、計画はより早い段階で行われている」
実務的に言えば、旅は体験を先に設計し、それを中心に組み立てられることが増えている。
この変化の一部は文化的なものだが、多くはテクノロジーによる。
15年前、ツアー・アクティビティ分野の多くは、オンラインで予約できる状態にほとんどなかった。供給は分断され、オフラインで、見つけにくかった。いまや体験のマーケットプレイスは、はるかにデジタル化され、検索可能で、予約可能になっている。
このインフラの変化がフィードバックループを生んだ。計画が容易になり、体験が旅行の意思決定の中心に据えられ、デジタルでの探索がさらに加速する、という循環である。
ライブイベント観光のパラドックス
体験が旅行の中心になっているのなら、ライブイベント——コンサート、スポーツ、フェス、オリンピックやワールドカップのようなメガイベント——は目的地に広範な経済効果をもたらす、と考えたくなる。
だがクインビーは注意を促す。
ライブイベントが旅行需要を押し上げるのは確かだが、それが「体験」エコシステム全体の支出拡大に必ずつながるとは限らない。
「ライブイベント観光が、体験分野全体により大きな経済効果をもたらすことと直接結びつく、という研究は見たことがない」と彼は言う。「実際、逆の効果になることすらある」
理由は単純だ。イベントが大きいほど、旅行者の行動は一点に集中する。
「オリンピックに行くのであって、ルーヴルに行くわけではない」とクインビーは言う。
大学フットボールの週末のような小規模なケースでも、行動は強く集中しうる。ファンは車で来てテールゲートパーティーをし、試合を観て帰ることが多い。
ホテルや飲食店は埋まるかもしれないが、博物館やツアー、アトラクションを予約する可能性は高くない。
これはイベントの経済的重要性を損なうものではない。しかし、イベント起点の旅行が地域の体験経済の他領域へ自然に波及する、というよくある前提には疑問を投げかける。
アクティビティやアトラクションの収益化を狙う旅行ブランドにとって、この違いは重大である。
イベント旅行にローカル体験を並べて掲載するだけでは不十分かもしれない。付随的価値を取り込むには、より賢い発見(ディスカバリー)と、より良いパーソナライゼーションが要る。
真の機会は「発見」にある
クインビーの最も興味深い指摘の1つは、「体験」は実は産業ですらない、という点だ。
航空会社は産業である。ホテルも産業である。博物館、イベントチケット、ツアーオペレーターもそれぞれ産業である。
それに対し「体験」は、旅行者が購入する余暇活動の断片化された宇宙を一括りにしたカテゴリーにすぎない。
そして、その断片化こそが、この領域を旅行ブランドにとって難しいものにしている。
クインビーは長年、企業が提携を結び、在庫を載せ、旅行者の意図を反映しない一般的な方法で販売する様子を見てきた。
「提携して、こうした供給をすべて載せて、それを同じやり方で販売する」と彼は言う。
体験はしばしば後付けとして登場する。決済の最後のページ、予約後メール、あるいは一般的な「やることリスト」の中で。
結果は予想通りだ。エンゲージメントが低い。
さらに悪いことに、推薦は関連性よりも手数料を反映していることが多い。
クインビーは最近のマイアミ旅行の例を挙げた。旅行を予約してほどなく、「マイアミでやるべきトップ10」と題したメールが届いたが、上位の提案2つが空港送迎だった。
「なぜ空港送迎がリストの上位に来るのか?」と彼は言う。「彼らは私が誰で、何を望んでいるのかを明らかに理解していない」
ここに戦略上の中核的なギャップがある。
旅行ブランドは小売のように「売れる在庫は何か?」と考える一方、旅行者は人間として、なぜここにいるのか? 誰と一緒なのか? どんな体験を求めているのか?と考えている。
体験分野の次の成長局面は、発見にかかっている。
「真の機会は、意図を理解することにある」とクインビーは言う。
供給者がさらにデジタル接続され、予約可能になっていくほど、差別化要因は在庫ではなくなる。適切な旅行者に、適切な瞬間に、適切な体験を提示できるかどうかである。
ロイヤルティの次の主戦場
体験が旅行計画の軸になりつつあるなら、ロイヤルティプログラムは重要な戦略判断を迫られる。
体験を特典交換のカタログとして扱うのか。それとも、新たな顧客インテリジェンスの層として扱うのか。
クインビーは、シンプルな例でこの課題を示した。
配偶者の誕生日にブロードウェイのショーへ連れて行くため、週末のニューヨーク旅行を予約する場面を想像してほしい。ブロードウェイのチケットが旅の中心であるため、早い段階で予約される。
一方で、美術館に行くといった他の活動は、到着後にその場で決まるかもしれない。
では、そのブロードウェイの購入が実際に意味するものは何か。
「そのチケットは妻のためだったかもしれない」とクインビーは言う。「私がブロードウェイを嫌いな可能性もある」
2週間後に出張でニューヨークへ戻るとき、旅行会社は彼がさらに劇場チケットを欲しがると推定すべきだろうか。
おそらく違う。
ロイヤルティにおける本当の機会は、同じ商品をさらにすすめることではない。旅の文脈を理解することである。
旅行者は祝っていたのか。家族と一緒だったのか。仕事だったのか。個人的な情熱を追っていたのか。
文脈が意図を決める。意図が関連性を決める。
そして関連性がロイヤルティを生む。
ここでクインビーは、AIが進展を大きく加速しうると考えている。複数の旅行や取引にまたがるシグナルをつなげることで、AIは購入を記録するだけでなく、意味を推論し始めることができる。
「それが最大の課題であり——同時に機会でもある。特に、いまのAIの時代には」と彼は言う。
成功するブランドは、取引データを超え、動機の理解へと進むだろう。
旅行ブランドに求められる戦略のリセット
もしクインビーの仮説が正しく、行動変化が実在するなら、旅行業界は従来の常套手段を見直す必要があるかもしれない。
いくつかの示唆が浮かび上がる。
体験を上流の需要シグナルとして扱う。
若い旅行者がフライトやホテルより先に体験を計画しているなら、体験はもはや付随的なものではない。旅行需要の先行指標である。
イベント旅行がクロスセル機会を生むと決めつけない。
メガイベントは来訪を生む一方で、旅行者の関心を狭めることがある。ブランドには、汎用的なアップセルに頼るのではなく、狙いを定めた文脈認識型の戦略が求められる。
マーケットプレイスではなく、発見エンジンを構築する。
在庫は参入条件にすぎない。競争優位は関連性にある。
ロイヤルティを「報いる」だけでなく「学ぶ」ために使う。
体験には豊かな行動シグナルが含まれる。人々がどこへ行ったかだけを追うプログラムよりも、なぜ旅をするのかを理解するプログラムが上回る。
数十年にわたり、旅行業界はロジスティクスを最適化してきた。人をポイントAからポイントBへ効率よく移動させることだ。
次の時代は、よりパーソナルになるかもしれない。
旅行者が自分自身を映す——あるいは、なりたい自分を志向する——体験を発見できるようにすることが、業界にとって最も強力な成長レバーになりうる。
そして計画の順序が本当に反転しているのだとすれば、先に適応したブランドは、支出の取り分を増やすだけではない。
フライトが予約されるはるか前から、想起の取り分を獲得する。



