對馬氏の決断を後押ししたのは、既存のwenaユーザーから寄せられた事業継続を望む声だった。ソニーによるサービス終了の告知以降、SNSだけでなく製品の修理拠点にもwenaの存続を求めるメッセージが数多く届いたという。
「wenaは万人に受け入れられるプロダクトではないかもしれません。しかし、実際に使ってくださるユーザーのみなさんには驚くほど深く愛されています。みなさんの声を受けて独立起業を決意しました」
新会社の名称である「augment AI(オーグメンティド エーアイ)」には、對馬氏の抱く壮大なビジョンが込められている。メインテーマは「人間拡張(Augmented Human)」と「Physical AI(フィジカルAI)」の融合だ。
「フィジカルAIは現在、主にロボットや自動運転の文脈で語られがちですが、私はその他にも様々な可能性があると考えています。ロボットがAIに身体を与えたものなら、AIを人間の身体や五感に作用させることも可能なはずです。ロボットが自律的に動いて人間を支援しても、人間の身体そのものがなくなるわけではありません。人間の身体に対して物理的に作用しながらケアをしてくれるようなデバイスを作りたいのです」
特に對馬氏がフォーカスしているのが、加齢による身体能力の低下をテクノロジーで補完する、ミドルシニア層を中心とするウェルビーイングの実現だ。
「加齢に伴い低下する身体能力を、テクノロジーで補完することを目指しています。高齢化が加速する社会が抱える共通の課題に対し、日本企業は革新的な解決策を提示できるはずです。スマートウォッチはそのための有力な手段の一つですが、将来的にはシューズのように身体の他の部位をサポートする、マルチデバイスの展開も実現したいと考えています」
同社がソニーから引き継いだのは、wenaに関連すると特許と商標のみだ。今後は資金調達から開発、量産まで自らの足で立たなければならない。厳しい環境だが、對馬氏に迷いはない。
「ソニーで培った品質やものづくりの経験に、スタートアップならではの機動力を活かしながらwenaの再出発を成功させます。私たちが小さな会社であることを強みにして、ファンの期待にしっかりと応える新しいwenaを届けたいと思っています」
誕生から10年を迎えたwenaの再出発には、人気ガジェットの復活を超えた大きな意味があると筆者は考える。これは、テクノロジーが身体の可能性を拡張し、人生をより豊かに彩る未来が「手首から広がる大事な一歩」なのかもしれない。
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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