7. 重要なのは「公案」
こうした問いの連鎖生成に重要なのは、おそらく「公案」である。
公案とは、禅の修行で出される答えのない問いである。有名なものに白隠の「隻手」がある。両手で手を打てば音が鳴る。では片手で打てばどんな音が鳴るか? というのがその問いである。
ここで「音は鳴らないだろう」と“マジレス”してはならない。心のなかで音がどんなふうに鳴ったかなど、自分なりに答えを編み上げ、提示するのである。
そもそも「モビリティゼロ」自体、冷静になれば、生物の移動はゼロになることはあり得ない。それは死であるが、循環も移動と捉えれば、死後も移動は可能である。したがって「移動性はゼロにはなり得ないので、問いとしてずれています」と“マジレス”することも可能である。白状すると、東大で勤務を始めてすぐの頃、僕は廣瀬先生にそのように答えていた。
「モビリティがゼロになったら」という問いかけを受け入れて、自分なりの答えとしての新たな問いを紡いでいくことが重要だと気づいたのは、ずっと後になってからである。
8. レゾナック・ホールディングス「連歌ラーニング」
今、こうしたGenerative Questioningの価値創出に向けて、少し違った角度から問いの連鎖生成を生み出す実験も行なっている。
レゾナック・ホールディングスと行なっている「連歌ラーニング」という試みがそれである。
アーティストやデザイナー、研究者の方々の講演を通した問いかけ(発句)に対し、来場者はあらかじめ用意された連歌カードに、初めの感想(付句)を記入してポストに投函する。すると講演後に参加者間でそのカードが「誤配」され、それを受け取った別の参加者はそこに句をつけたし、また投函する。こうすることによって、連歌の要領で、組織内で数ヶ月間をかけて講演の主題に対する理解を発酵させてみよう、という研究である。
一般に講演は聞いてその場で終わりとなることが多い。こうした課題を乗り越えつつ、問いの新しい連鎖の可能性を発掘してみようというのである。
連歌はいわば、句が次の詠み手への問いかけになる。この連歌ラーニングでもやはり詠み手は前の詠み手の問いの連鎖を引き受けて、句を詠んでいる。
例えばあるカードでは、サステナビリティという主題に対し、登壇者の「意味のリデザインが大事」というキーワードから、ゴミをどう名づけるかという問いが生まれ、資源ゴミという言葉における矛盾が指摘された。そこから資源は次第にゴミに変わるという時間変化の重要性や、日本の着物や反物などの文化の重要性の詠みへと繋がっている様子が見てとれた。


