5. 「内面の移動」という主題から響きあう問い
「モビリティゼロ」という問いかけから、DENSOの「内面の移動」というテーマが深ぼられ、東大では研究的に探究されてきた。その視点としての問いの蓄積は、今回の企業共創プロジェクトにも引き継がれ、問いは五者のなかで響きあった。それはレンズなどを用いて「ガラスの内面を覗く」という不思議な問いかけに波及し、作品と展示へと結集した。
ガラスの内部を覗いたからといって、人の内面は見えない。しかし僕たちは、その二つの内面性を重ね合わせて想像し、レンズという仕組みと繋げて構想することを通して、ガラスと人間の内面性を繋げる表現を炙り出した。その駆動力には、研究的な問いかけだけでは到達できないアートの力がある。
研究からアートに連鎖した問いの生成は、AGCにとってガラスの意味の再発見にも繋がり、DENSOにとっても、「移動」とガラスによって生まれる「像」への興味が生まれ、事業との接点も探られている。こうしたダイナミックな展開に、アートと研究の連動を通して「問いを連鎖させること」による理解獲得の価値がみてとれるのである。
その後、展示に関連するトークセッションのなかで僕は、「そうか、『空を閉じ込めるガラス』はある種のVRなのだ」とはたと気づいた。そこにはない空を、光を用いて、数十センチのガラスのなかに再現してしまう。これは映像とレンズを用いて、そこにない空間をゴーグルのなかに再現するVRと相似であり、もっと言えば本質的に同型のものである。こうした気づきは、僕に学術的な意味でもVRというもののあり方について再考させた。
モビリティゼロという大きな問いかけに対し、アカデミアとアートと企業の問いが連鎖し、移動を軸とした新しい理解が次々に創出され、概念は作品体験として具体化される。それ自体が新たな問いともなり、次の問いに波及する。
こうした展開こそアートと研究の連動を通したGenerative Questioning(問いの連鎖生成)の萌芽であり、アートが実社会や企業と深く交わりうる可能性そのものなのではないか、と思ったのである。
6. 記述と読解の往復
2025年の大阪万博テーマ館プロデューサー8人のうち、5人は研究者であった。そしてそのうち2人は研究者でありつつアーティストであり、もうひとりはアートに近い展示を繰り返し経験しているいわばクリエイターであった。こうしたプロデューサーらの出自は、アートと研究の往復運動のパワーに対する時代の要請と呼応していたように思われる。
研究とアートとの問いの往復は、物事の本質を詳らかにし、社会や時代の文脈と結びつける認識の力と、問いを単なる哲学的探索に発散させずカタチに収斂させる力の両方を生む。研究とアートが「視点の創造」を通奏低音として、響きあうように問いかけを生むのは、この読解と記述の連続によって問いが展開されていくからだ。複雑な様相を呈す現代社会に必要なのは、この読解と記述のダイナミックな往復なのである。
アートと研究の往復のパワーをより幅広く展開すべく、Generative Questioningという概念の媒介を通して、アーティストと研究者の問いかけ合いを生み出し、企業がその問いかけの輪に入るなかで、対象の本質的な理解が浮かび上がってくる。そこに企業がアートを必要とする本質的な力学が見えてくるのである。


