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2026.03.23 11:15

新結合で「ナラティブを継ぐ」 葛藤の先に見えたアトツギたちの生存戦略

左からファシリテーターのシンニチ工業代表取締役社長の木下雄輔氏、田村七宝工芸 5代目の田村有紀氏、岡崎竜城スイミングクラブ取締役の大森玲弥氏

左からファシリテーターのシンニチ工業代表取締役社長の木下雄輔氏、田村七宝工芸 5代目の田村有紀氏、岡崎竜城スイミングクラブ取締役の大森玲弥氏

中小企業庁の調査によると、国内中小企業の後継者不在率は半数を超え(52.7%)、依然、高い割合を占めている。中でも休廃業した企業の半数(51.1%)は黒字であり、その要因の一つとされるのが、後継者不足だ。

そうした中、事業継承することを自らの意志で選び、脈々と受け継がれてきた経営資産に新しい風を吹き込もうと意気込むアトツギも現れている。本稿では、2026年1月29日、グローバル・イノベーションフェスティバル「TechGALA Japan」(名古屋市)で行われたトークセッションの様子をレポートする。

自らもアトツギであるシンニチ工業代表取締役社長の木下雄輔氏をファシリテーターに迎え、伝統工芸にスクール経営、食品メーカー、コンサルティングという異なる家業を持つ女性4人が登壇。アトツギとしての「覚悟や変革」「アトツギとは何か」という問いに向き合った。

「外の世界」にいたから見えた、家業を未来へつなぐ可能性

「尾張七宝(おわりしっぽう)」は、愛知県あま市および名古屋市一帯で生み出される焼き物で、日本が誇る伝統工芸だ。銀や銅の金属の表面にガラス質の釉薬を焼き付ける技法を特徴とし、全盛期には100を超える窯元が存在していたが、今では数えるほどしか残っていない。その中の一軒、田村七宝工芸の5代目が田村有紀氏だ。

「うちは代々七宝焼の職人で、幼い頃、両親はとても忙しそうでした。小さい頃から職場で遊び、仕事の邪魔をし、手伝いもして。そうして作品に囲まれて育った私は、七宝の魅力をよく知る反面、七宝の世界しか知らずに生きてきました」と田村氏。しかし職人も、道具や材料を売る店も徐々に減っていく中、高校生になる頃には家業の苦境は誰の目にも明らかになっていたと振り返る。そして当時、跡を継ぐ覚悟があったかと問われると、「なかった」と即答した。

「仕事がなくなり、みんな試行錯誤をして、その段階も過ぎた状態。自分が何をすればいいのか全然分からなくて、高校卒業後はいろんなことをしました」(田村氏)

田村氏は武蔵野美術大学の建築学科に進み、設計と現代アートの作品作りに精を出すとともに、芸能事務所に所属して歌手やMCとしても活動。卒業後は企業に入社し、デザインやイベント企画・運営の仕事もこなした。すると次第に、そうして外の世界で得た視点やビジネスのノウハウを、家業に生かせるかも知れないと思うようになっていったという。

「これを家業に当てはめたら、七宝焼に興味を持ってくれる人を増やせるかも知れない。家計が回る、ひいては地域が回るきっかけになるかも知れない、という可能性を感じました。何もせず七宝焼という伝統技術が消えていくのを傍観していることに耐えられなかった。できることが見えた時点でやらないと、死ぬ時に絶対後悔すると思いました」(田村氏)

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文=真下智子 編集=大柏真佑実

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