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2026.03.23 11:15

新結合で「ナラティブを継ぐ」 葛藤の先に見えたアトツギたちの生存戦略

左からファシリテーターのシンニチ工業代表取締役社長の木下雄輔氏、田村七宝工芸 5代目の田村有紀氏、岡崎竜城スイミングクラブ取締役の大森玲弥氏

さらに大森氏は、創業者が水泳指導の姿勢などをまとめた「コーチ心得」をもとに、新たな管理手法として「MBB(Management By Belief)」の導入を進めている。日本語で「思いのマネジメント」と呼ばれる同手法では、数値目標で社員を管理するMBO(目標管理制度)とは異なり、企業理念と社員個人の思いとの接点を見つけ、共鳴させることで、社員一人ひとりが主体的に行動できるように促す。

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創業者を知る現場の社員が少なくなった今、その思いを組織に継承する手段の一つになると大森氏は見込んでいる。今春には、人材育成や評価へ落とし込む予定だという。

アトツギこそ「最強の変革者」

「アトツギとは何か?」という最後の問いに、伝統工芸の後継者である田村氏は、ピボットできないことを本質として挙げた。

「私たちは、七宝焼という事業の主軸は変えられません。今ある限られた選択肢の中から選び、反転させたり、こねくり回したりして、どうにかするのがアトツギ。守るべき根底を大切にしつつ、それを超えて次のステージを目指したい」と語り、伝統と革新の相克をエンジンに、成長していく意欲を見せた。

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 一方、大森氏はアトツギを「ナラティブを継ぐもの」と定義し、理由を次のように語った。「仮に気候変動で25mプールに水が溜められなくなる未来が来ても、岡崎竜城スイミングクラブのストーリーや文化、その根底にある創業者の思いを受け継ぎ、綺麗な一本の線になるようにしていくのがアトツギの役割だと思っています」

その大森が今、祖父の意思を継ぎ、取り組んでいることがある。着衣泳だ。全国のスイミングスクールでもほとんど導入例がないが、祖父が水難事故のニュースを見るたびに「俺が教えていれば」と呟いていた姿を胸に、普及に注力している。

アトツギという言葉は、得てして受動的に解釈されがちだ。しかし真の事業継承とは、先代たちが遺した点を自ら選び取り、未来への線を引き直す、極めて主体的なものだ。運命を甘んじて受け入れるのではなく、自らの意志で事業を再定義し、息吹を吹き込んだとき、アトツギは最強の変革者になり得る。彼女たちの挑戦が、次なるアトツギの背中を押すことを期待したい。

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文=真下智子 編集=大柏真佑実

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「アトツギ」の新潮流

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