テクノロジー

2026.03.24 17:00

エヌビディア史上最大「3.2兆円の買収」、AI推論の覇権も狙う──チップ新興の当事者が明かす舞台裏

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「GPUだけでは足りない場面がある」――GPU業界の覇者エヌビディア自身が、その考えを事実上認めた。

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エヌビディアは2025年12月24日、AIチップ新興企業GroqのLPU(言語処理ユニット)技術を約200億ドル(約3.2兆円)で取得すると発表した。同社30年の歴史で最大の取引だ。

取引の形式は「買収」ではなく「ライセンス契約+人員採用」である。米国では独占禁止法の審査を回避するため、企業を法人格ごと買収せず、技術と人材だけを取り込む手法が定着しており、今回もその典型にあたる。

AIモデルの「学習」にはGPUが適しているが、「推論」には専用チップの方が速く、安く、電力効率が高い場面がある。GPUとLPUはそれぞれの強みを活かして役割を分担するというのが、エヌビディアの新たな答えだ。

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その具体的な姿が、2026年3月16日の年次開発者会議「GTC 2026」で示された。エヌビディアは次世代プラットフォーム「Vera Rubin」にGroqのLPUを組み込んだ新製品「NVIDIA Groq 3 LPX」を発表。1ワットあたりの推論処理能力を最大35倍に高めるという。出荷は2026年夏以降を予定している。

一方、売却側のGroqは創業から9年間、売上が伸びず何度も倒産の瀬戸際に立った。もともとGroqがエヌビディアにGPUチップの購入を打診したことが交渉の発端だった。その3週間後にエヌビディア史上最大の取引が成立するという、シリコンバレーらしい急展開だった。

GPUの購入打診がきっかけとなり、エヌビディアとGroqは取引に踏み切る

Groqの共同創業者でCEOのジョナサン・ロスは2025年末、エヌビディアCEOのジェンスン・フアンとの会談で、両社の技術を連携させる構想を提案した。ロスは、すべての処理に同じハードウェアを使う前提でAIデータセンターを構築するべきではないという考えを、物流に例えて説明した。

人工知能(AI)モデルの学習は大量輸送、推論はラストワンマイル配送にあたる。GPUはその両方に対応できるが、バンで足りる輸送に大型トラックを使えば、かえって時間がかかる。つまり、エヌビディアの汎用GPUは大型トラックであり、Groqの専用チップ(LPU=言語処理ユニット)は高速処理に特化した小型バンに相当する。「もし全米規模の物流ネットワークを構築するとして、18輪トラックだけを使うか、配送用バンだけを使うかの二択を迫られたら、どちらを選ぶか」。ロスはそう問いかける。「最適な答えは両方だ」。

ロスはエヌビディアに、Blackwellチップ約10万個の供給を求めていた

ロスは単なるビジョンを語っていたわけではない。彼はエヌビディアに対し、約10万個のBlackwellチップ(総額は数十億ドル[数千億円]規模とみられる)を自社に供給するよう求めていた。フアンは技術的な詳細について厳しく問いただし、そのまま会談は終了した。

 それから3日後、フアンから電話があった。ロスはGPUの発注についての話が始まると考えていたが、実際には違った。彼によれば、フアンはその電話で「すぐに動いた方がいい」と言ったという。

3週間後のクリスマスイブ、エヌビディアはライセンス契約と人員採用を発表

その3週間後のクリスマスイブに、エヌビディアは200億ドル(約3.2兆円。1ドル=158円換算)規模の契約を発表した。その内容は、同社がGroqの製品の使用権を取得し、従業員の大半を採用するというものだ。これは、シリコンバレー的に言えば、書類上の手続きを伴わない合併のようなもので、チームを取り込み、技術を確保しつつ、企業内部に残る問題やリスクを引き継がず、さらに独占禁止法の問題も回避できる。

現在はエヌビディアのチーフ・ソフトウェア・アーキテクトを務めているロスによれば、LPUクラウドを提供する独立企業としてのGroqは現在も存続し、成長を続けているという。元社員は先月、同社が売却される見通しだと述べたが、現時点ではまだ実現していない。

取引の意図が見えにくかった中、年次開発者会議「GTC 2026」で戦略の全体像が明確に

当時、この取引の意図は多くの人にとって理解しにくかった。エヌビディアがGroqに何を求めているのか、「推論に本気で取り組む」というアピール以上の意味が見えにくかったためだ。フアン自身の説明も、かえって混乱を招いた。「彼らはAIファクトリーの主流領域に対応するのに苦戦していた。しかし我々と組めば、その必要はなくなる」と、彼は2026年初めのカンファレンスで語っていた。

しかしその3カ月後の年次開発者会議「GTC 2026」で、エヌビディアはGroqとの取り組みについての説明に多くの時間を割き、戦略の全体像を明確にした。同社が示したのは、「Groqは単独で主流の企業になる必要はない。すでに主流の地位を確立しているAI企業の内部で、不可欠な存在になればよい」という考えだ。

ロスは税引き後で約1500億円を得る見込み、その他の関係者も巨額の報酬を手にした

関係者はすでに巨額の報酬を手にしている。ロスはGroqの推定9%の持ち分に基づき、税引き後で約9億5000万ドル(約1500億円)の現金を得る見込みだ。エヌビディア株による報酬も得る見込みとなっている。これは、移籍した従業員向けに確保されたとされる約30億ドル(約4740億円)のうち大きな割合を占めるとみられ、権利確定すれば新たなビリオネアとなる。

ロスは純資産についてコメントを避けたが、今回の取引が株式交換や資産売却であれば、二重課税が発生する現金中心のライセンス契約よりもはるかに大きな資産が得られたはずだ。

その他の大きな勝者としては、ロスと同程度の持ち分を保有していたとされる投資家チャマス・パリハピティヤのSocial Capital、そして「契約成立に大きく貢献した」とロスが評価するGroqのCOO兼社長サニー・マドラが挙げられる。米政府も恩恵を受ける側だ。取引の構造上、米政府は60億ドル(約9480億円)以上の税収を得る見込みだ。エヌビディアも約30億ドル(約4740億円)の税控除の恩恵を受けると見られている。

次ページ > GTC 2026で発表された「NVIDIA Groq 3 LPX」は、GPUとLPUの役割分担を実現

翻訳=上田裕資

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